場の和を乱したくないという思いが強く、同僚といやいやランチに行こうとする私…

それは、強迫観念/強迫神経症かもしれません。

今回のご相談者Sさんのように、ある何かをしていないと不安で仕方がないと感じてしまう気持ちのことを「強迫観念」といいます。なんだかちょっと恐ろしげな名前ですが、誰かがあなたを怖い目に遭わせるということではありませんのでご安心ください。

 

強迫観念とは、自分の心に強くこびりついて、不安や恐怖、不快な感情を引き起こす心の動きのことです。「ある強い思い込みが、自分自身に強く迫って不安にさせてしまう状態」です。やっかいなことに、強迫観念は取り払おうとしてもなかなか取り払うことができない、といわれています。「わかってるけど、どうしようもないのよ」という状態が極端にひどくなったものということです。

 

アメリカでは、100人に2人は強迫神経症(強迫観念につきまとわれる症状。本稿では強迫観念という言い方に統一します)という調査結果があります。以前は、この症状は治療することが出来ないとされてきましたが、最近の研究では、適切な処置を施すことで治る病であることがわかってきましたので、必要事情に不安になることはありません。

 

強迫観念は、模式的に表すと次のような(悪)循環に陥っているとされます。


気がかりなことがある(先行刺激)

⇒不安になる(強迫観念)

⇒無理をしてでも気がかりを解決しようとする(強迫行動)

⇒一時的に不安感が下がったような感じがする

⇒しばらくするとまた不安になる

 

 

これをSさんのケースにあてはめてみましょう。


同僚といっしょにランチに行かなければダメ?(強迫刺激)

⇒そうしないと職場の和が乱れるに違いない(強迫観念)

⇒無理していっしょにランチに行く(強迫行動)

⇒和を乱さずに済んでよかった(ような感じがする)

⇒しばらくするとまた職場の和を乱さないか不安になる

⇒無理していっしょに…

 

Sさんのケースは、「気の合わない同僚とランチをしなければならな」、と感じているということで、逆パターンの強迫観念といえると思います。

 

強迫観念の症状自体は上のような悪循環をくり返すものですが、もうひとつの悪循環に陥ると困ったことになる場合があります。つまり、強迫観念が起こることや、それによって引き起こされる不安や不快を感じたくないと思うあまり、強迫観念が起こりそうな場所や行動を避けるようになる、ということです。そうなると生活そのものに支障を来すことになってしまいます。

これを模式的に表すと次のようになります。

 

強迫観念が強くなる

⇒怖い、不安、不快を感じたくない、強迫行為をしたくない

⇒強迫観念が起こりそうな場所、強迫行為をしてしまいそうな場所を避ける
1⇒生活しづらくなる

2⇒特定の行為や場所が苦手になる、こわくなる

⇒ますます避けるようになる

 

状況が悪化すると、同僚とのランチに端を発して、出社できなくなるなどの極端な症状を呈する可能性もないとはいえません。

 

適切に治療すれば治ります

強迫観念の原因については、まだはっきり解明されていません。しかし、適切な治療をすることで4分の3(75%)の人は治る、というデータが公開されていますので、必要以上に不安にならなくても大丈夫です。根気よく取り組めば改善します。

 

強迫観念への処方は行動療法とよばれるものが主になりますが、いずれにしても専門家の指導の下で継続的に取り組む必要があります。決して素人判断で行わず、心療内科などの専門医にご相談ください。

 

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