いい加減より良い加減

前回の記事で、ご相談者(ここでは仮にAさんとしておきましょう)は、「仕事を完璧にこなしたい」という思いが強いがために、職場の同僚にも自分と同じような仕事ぶりを求めてしまい、それが原因で人間関係について思い悩んでいました。そこでAさんには、自分を中心にして「自分は自分、他人は他人」という一定の距離感を基に区切りをつけること。そして、自分ではコントロールできない領域のあることを知り、敢えて踏み込まないこと、をアドバイスさせていただきました。

これはもちろん「周囲の人に無関心でいなさい」ということではありません。いっしょに仕事をする同僚とは、切磋琢磨しながら、互いに向上出来る関係が構築できればよいことは言うまでもありません。
しかし、期待するものが大きすぎると、かえって相手の至らない点にばかり目がいって不満の原因になり、Aさんのように人間関係によくない影響をおよぼすことになります。


過ぎたるは及ばざるがごとし

中途半端はいけませんが、中庸のよさというものも決して忘れてはいけないことなのです。言い換えれば、「いい加減(チャランポラン)」はダメでも「良い加減(ちょうどいい)」なら、場合によっては「完璧な極上より上」な場合もあるということだと思います。

 

ここで、ひとつのエピソードを紹介したいと思います。

2010年、7年間の苦難の旅の末に、月をのぞく地球外の天体から初めてのサンプルリターンに成功した「はやぶさ」のストーリーは、さまざまな形で語られ、多くの人々の知るところとなりました。
 

そこで紹介された、はやぶさのプロジェクトマネージャー(責任者)川口淳一郎教授の話の中でとても印象に残ったのが次のことばです。要約すると次のような内容です。

 

「この(はやぶさ)プロジェクトは、従来の減点方式ではなく加点方式で運用されたため、行方不明になってからもプロジェクトが存続し、7年目にして地球への帰還に成功した。もし減点方式で運用されていたとしたら、このような成果は挙げられなかったと思う」

 

つまり、100点満点があらかじめ決まっていて、そこから出来なかったことを引き算していく減点方式ではなく、打ち上げに成功したら**点、軌道投入に成功したら**点、はやぶさ本体のイオンエンジン点火に成功したら**点というように次々に加算され、ひとつのハードルを越えると更に次の課題にチャレンジする、という加点主義があったからこその成功だったというのです。減点方式だと100点満点という基準があるので、相対的な到達度による評価はしやすいですが、どんなにうまくいっても100点を越えることはありません。常に出来なかったことに注目する評価になります。

 

これに対して加点法は、「出来たことと出来なかったことのバランスで、全体の評価がプラスなら善しとする」というもので、マイナスだけでなくプラスもしっかりと評価するというのが特徴となっています。というわけで、当然のことながら合計点は天井知らず。100点満点の制限はありません。つまり、減点法には100点満点という限界が存在することになり、どんなに頑張っても100点を超えることは出来ないのです。

加点法は天井知らず

相談内容について考えてみると、Aさんは完璧さを求めるあまり、常に100点満点が基準になった減点法で同僚の仕事ぶりを見ていました。その結果、目につくのはマイナス点ばかりで不満がつのり、人間関係もおかしくなりかけていたのです。そこで、100点満点にこだわらず、「悪いものは悪い、けど良いものは良い」という加点法を取り入れてもらうことをアドバイスしました。
 

「あの人は、これは出来てないけど、ここはキチンと出来ている」という見方をしていただくことで、これまでとは違った面を見つけることが出来るようになり、人間関係も改善されることと思います。

 

みなさんも是非参考になさってください。

 

(1612002)