台湾人外省人の現在~変容する国家とそのアイデンティティ
ステファン・コルキュフ 著
とりあえず行ったら楽しい。食べ物が美味しい。果物も美味しい。
海もきれい。しかも人も優しい。なにより全体的に日本に対して好意的。
住んだことが無いからわかりませんが,遊びに行くには本当に楽しいところです。
特に自分のように中国語を理解できれば更に楽しいのです。
(日本語オンリーでも十分楽しめるようになっていますが)
当然自分も台湾へ行ったら全力で遊ぶ。食べる。
魚肚湯!雞肉飯!芭樂!イヤッホウ!なノリです。それで良いんだと思います。
観光だし。楽しいし。南国だし。
なのですが。なのですが、なのです。
実のところ台湾って我々一般の日本人が考えているよりも複雑な社会だったりします。
ぱっと思いつくだけでも,中国本土との関係や日本の植民地時代の影響なんかがありますね。
我々が知らない、気づきにくいところで実はもっと色々あるようで(原住民や外省人本省人なd)
そのうち、『外省人』という視点で台湾を覗く事を試みている本です。
ざっくり書くと1945年の終戦後に,国共内戦に破れ中国本土から渡ってきた中国国民党ベースの人間たち
(必ずしも全員が漢民族だったわけでは無いようです)の事を外省人といいます。
これに対し、それ以前に台湾に住んでいた人たち(原住民を除く)の事を本省人といいます。
いわゆる日本の統治下から居た人たちのことですね。
で、この外省人が45年以降に台湾に移動してきたわけですが,圧倒的少数だったのに
政治的には彼らが台湾を支配することになります。(そこらへんの話はこれはこれでまた色々あるのですが)
とはいえ、外省人たちはそもそも台湾へやってきたのは一時的な避難のためで
いずれはまた本土に戻って中華民国として中国を統治するので,ここに腰を据えるわけではないぞ
というノリだったらしいんですね。
で、まあ結果は皆さん御存知の通り。中華民国の首都は未だ南京にあるものの,大陸に殴り込みをかけに行くことは
まだかなっていないわけです。
ここに至るまで,80年代の終り頃に本土に親族を探しに行ったり,故郷へ戻ったり,という動きがあったようなのですが
結局の所,彼らは自分でも気づかないうちに台湾化してしまったわけです。
台湾ではよそ者扱いされ(そういう扱いをされる原因もあるにはある),いつか本土に戻るという夢も現実的ではなくなり
自分たちは本省人とは違うものという意識も消えたわけではなく,だからといって独立すべしという短絡的な考えになることもできず。
そんな複雑なジレンマを抱えていらっしゃる、という存在なのだそうです。外省人とは。
そのあたりのところをアンケート調査を行って考察してみよう、というのが大筋です。
正直なところ眠くなったりよくわからんところもありましたが、
概ね興味深く読むことができました。
また話のなかで
そもそも台湾とは?国民党とは?中華民国とは?国語と台湾語とは?
あたりのところも言及あるので,調査の結果そのものよりも
そこらあたりを扱っている部分が面白かったです。
もちろん,代替わりするにつれ、当事者たちの意識も当然変わってきてはいます。
著者が調査を行ったのは90年代末。そこから20年経ってますからね。
また、更に著者が外人なので、『外人だからこそ』みたいな部分と『外人なんかにはわかるまいよ』みたいな
部分があるとは思います(著者本人も言及していました)ので
手放しで100%信用する,という見方はできないかも知れませんが
傾向としてこういう感じなんだ、というのはわかります。
興味を引く部分をさ-っと読むというだけでも,随分と理解が広がると思います。
もしかしたら次に台湾に行った時に,今まで見えなかったなにか別のものが見えるかも知れませんね。
とりあえず最後に一点。
台湾人とお付き合いをするようになって随分色々知り得た事があるのですが
どうしてもやはり、日本の一般の方の台湾の見方,つまりは日本の報道の方向性,というのがかなりのステレオタイプになっていて
誤解覚悟でざっくり書いてしまうと
国民党-外省人-中国本土とのつながり-ゆくゆくは本土と統一-西側的立場からいうと敵対-悪の陣営
民進党-本省人-独立志向-西側的立場-正義の陣営
みたいな感じになってるような気がするんですよね。
でも、本当にこんなに単純じゃないです。
この切り口だけであの国で起こっている事を捉えようとすると、
多分きっと何かを間違えます。
とは、色々台湾の人と話をしているうちに思いました。
だから何だってわけではないです。
別に自分は台湾に住んでいる台湾人でもなんでも無いし。
美味しいごはんがたらふく食べられる国で居てもらえれば満足ですよ。