<<雷魂>>

今は亡き家族の「雷:ライ」は、
豪胆無比の北極エスキモー犬だった。
私は彼から本物の不屈精神を学んだ。
北極エスキモー犬の数千年の歴史が、
いったいどれほど過酷だったか、
彼と暮らすうちに、ありありと実感できた。
それはまさしく、命懸けの苦闘の歴史である。
ライは我家に於いて、狼の太郎の兄貴だった。
太郎は最後まで、ライを兄貴として尊敬していた。
もはや「力」では巨狼の太郎が圧倒していたのだが、
しかし太郎は、ライの豪胆精神に敬意を払っていた。
≪ライも相当に大型だったのだが、太郎はさらに極大型だった≫
ライは13歳の生涯で、三度くらいしか吠えたことが無い。
しかもそれは「ヴァン!!」という重低音の一言である。
ライは秘めた覚悟の塊りだったから、
いつでも命懸けの覚悟ができていたから、
だから吠える必要が無かったのである。
猛犬種で知られる大型犬連中も、
ライが無言で見詰めるだけで顔を逸らしたものだ。
ライの眼力は、とにかく途方も無かったのだ。
これまで大勢の種種様様な犬種たちと付き合ってきたが、
未だにライのような犬は見たことが無い。
それほどまでに強烈な豪胆だった。
ライは北極現地の橇犬チームのボス犬の直仔なので、
つまり世間で言われる「犬」の範疇には入らないので、
家族として暮らすには想像を超えた至難に満ちていた。
しかし道程の果てに、我我は永遠の絆を結んだ。
山に雷鳴が轟く時、山に雷光が閃く時、
私はいつもライを思い出す。
ライは我が子であり、そして恩師である。
ライの毛色は独特だったが、北極エスキモー犬の毛色は様様である。
見栄えという視座で言えば、「王嵐:オーラン」のような灰色が綺麗だが、
北極エスキモー犬の場合には、とにもかくにも「実力」が最優先なので、
毛色などは全く「条件」には入らないのである。
毛色は度外視されるが、「毛質:毛機能」は重大条件である。
北極現地では、極めて高密度の二重毛が絶対条件となる。
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2013:07:27 ≫