<< この一瞬 >>
練習中のアクシデントで記憶を失った高校女剣士。
それまで生きてきたことの記憶は、もう戻らなかった。
なにもかも、忘れ去ってしまったのである。
そして右手右足の感覚も麻痺した状態になった。
だが彼女は、諦めなかった。
一度は失意に沈んだが、また進撃を開始した。
恨まず。憎まず。怖れず。果敢に。
彼女は防具の着け方さえ忘れてしまった。
だが彼女の心と身体は剣道を憶えていた。
そしていよいよ大会で、彼女は「大将」を拝命した。
準決勝、先鋒から三人が敗れ副将も引き分けとなる。
ついに大将である彼女の出番となった。
彼女は見事に「三人抜き」を果たし、試合を五分に取り戻した。
最後は相手方の大将に敗れたが、三位の栄冠を手にした。
彼女の試合を映像で見たが、実に堂堂とした姿だった。
恨まず憎まず怖れず果敢に堂堂と闘う姿に感動した。
全ての過去は、この一瞬の中に刻まれている。
たとえ記憶を失くしても、
生きてきた全てが、この一瞬の中に刻まれている。
そして全ての未来が、この一瞬の中に映り込んでいる。
華厳菩薩が涙して、彼女の勇気を讃えている。
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2012:07:02 ≫