<< 深夜山行 >>

深夜に山行する日もある。
仕事が終り、犬たちの世話と運動が終り、
そういう全ての日課が終わった後で山行に入る。
その時間が、深夜になる日も結構多いのである。
まず、深夜の山を歩く。
だいたい独りで歩くのだが、
時には犬と一緒に歩く日もある。
その時には、一頭だけ連れて行く。
独りで歩く夜には山道を行くのだが、
犬と歩く夜には道無き森に入っていく。
犬は、およそ20mくらい先を歩く。
なにしろ辺りは真暗闇なので、
犬が先導してくれるのである。
頭に小さなヘッドランプは着けているのだが、
そんな小さな光量では目前しか見えないのだ。
どこを歩いているのか、全く分からなくなるのだ。
ほんとうに、全く分からなくなるのだ。
しかし当然、犬の姿も見えない。
どうやって犬に着いて行くかというと、
枯枝を踏む犬の足音だけを頼りにする。
その足音だけが唯一の頼りなのだ。
それを聴きながら、漆黒の森を進んでいく。
それにしても、犬の感覚というものは凄い。
人間とは、まるで別次元である。
単なる臭覚とか聴覚の次元ではない。
犬は、あらゆる感覚を総動員している。
自分の中の全ての感覚を起動させている。
全感覚を起動できるところが凄いのである。
そうやって犬に先導されながら進んでいく。
かなりの距離を歩き、最後に山道に戻っていく。
もう森の我家が間近の場所に戻っているのだ。
どこをどう歩いたのか、全く分からないのである。
夜の山というのは、昼の山とは全く別世界なのだ。
我家に着き、地面に坐って野性界勤行に入る。
犬舎の犬たちは、無言で私を見つめている。
おん あぼきゃ べいろしゃのう
まか ぼだら まに
はんどま じんばら はらばりたや うん!!
あのくたらさんみゃくさんぼだい
あのくたらさんみゃくさんぼだい
あのくたらさんみゃくさんぼだい
おん じのじの たたぎゃと じはへい
さむいんちはらち うだぼだべい
おん さらべいてい そわか!!
あのくたらさんみゃくさんぼだい
あのくたらさんみゃくさんぼだい
あのくたらさんみゃくさんぼだい
唱え始めると、森にラップ音が鳴り響くことが多い。
パーーン!!パーーン!!パーーン!!
あっちから。こっちから。いろんな方角から。
≪ ここは無人の森なのである。誰もいないのである。≫
戒香定香解脱香
光明雲台遍法界
供養十方無量佛
見聞普薫證寂滅
我昔所造諸悪業
皆由無始貪瞋癡
従身語意之所生
一切我今皆懺悔
パーン!!パーーン!!パーーン!!
静寂の蒼い森に、ラップ音が響き渡る。
もちろん犬たちは全く驚かない。
彼らは、知っているのである。
森の動物たちも、もちろん知っている。
みんなで精霊界からの伝言を聴いているのだ。
ラップ音をバックに、経を唱え続ける。
これは野性界独特の勤行だろう。
熊も聴いているだろう。
猪も聴いているだろう。
キツネもウサギも聴いているだろう。
みんなのことを祈っている。
アニマリアの命たちを祈っている。
そして人間たちの心に祈っている。
普賢行願威神力
普現一切如来前
一身復現刹塵身
一一遍礼刹塵佛
於一塵中塵数佛
各処菩薩衆会中
無尽法界塵亦然
深信諸佛皆充満
我以広大勝解心
深信一切三世佛
悉以普賢行願力
普遍供養諸如来
願持諸佛微妙法
光顕一切菩提行
究竟清浄普賢道
盡未来劫常修習
おん さんまやさとばん!!
あのくたらさんみゃくさんぼだい
あのくたらさんみゃくさんぼだい
あのくたらさんみゃくさんぼだい
<<南無華厳菩薩道 南無華厳大悲界>>
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2012:05:22 ≫