<< 狐 の 心 >>
いつもは日曜でも仕事だが、今日は休みだ。
休みの日でも、どこにも出掛けない。
この山で普段以上に山行に入る。
私は大勢の犬たちが家族だから、遠出できない身の上だ。
これまでずっと、旅行などとは無縁の人生である。
だがこの山に居れるだけで充分に幸せである。
ここには無限に深いワールドが隠されているのである。
毎日毎日が、新たなワールドと出逢う旅なのである。
昨夜は、森の狐と幸せな時を過ごした。
夜遅くに犬たちの世話が終り、
私は犬舎の裏手で佇んでいたのだが、
その漆黒の闇の中に、狐が来ていたのである。
なにしろ闇の中だから、最初は狐だと分からなかった。
狐は物音ひとつ立てずに、見事に気配を消していたのだ。
さすがは野生動物である。ほんとうに凄い!!
だが私は、なんとなく何かの気配を感じていた。
熊かな?とも思ったが、熊ならば、さすがに多少の音がする。
数年前は「バキバキ!」と、枝を踏み鳴らして訪れたのである。
猪か?カモシカか?それとも狐かな?誰だろう?
それで、頭に装着した小さなヘッドランプを点灯してみた。
ゆっくりと見渡すと、近くにオレンジ色の眼光が見えた。
犬の目は青く光る。熊の目も確か青系だったような記憶である。
そっと静かに近づいてみたら、狐の姿が見えた。
かなりの至近距離だったが、狐は逃げずにそのままだ。
そのままずっと、静かに私を見つめている。
犬舎の犬たちも、無言のままである。
犬たちは、もちろん最初から気づいていたのだ。
犬たちは真暗であろうと、すべてをキャッチするのだ。
だがこれだけの大勢の犬たちが、
これほど無言というのも、なかなか凄いことである。
野生の狐の来訪を知っていながら自然体のままである。
狐と犬たちは、完全に「知り合いの仲」なのである。
知り合いどころか、もはや森の友だち同士なのだろう。
これまでも、すぐ近くまで狐が来ることはあったが、
それが同じ狐かどうかは分からない。
だがいずれにせよ、狐たちは子狐の頃から我我を知っている。
子狐の頃から、ずっと我我のことを見てきたはずである。
私はヘッドランプを消して、そこに座った。
狐はそのまま、私を見つめている。
狐を前に、私は野性禅に入った。
犬舎の犬たちも、静寂境に入っている。
それは素晴らしい世界だった。
狐の心。 私の心。 犬たちの心。
この漆黒の闇が、心の世界に満ち満ちている。
狐の心が、ありありと痛切に、この心に伝わる。
こんなに純真な、こんなにかわいい山の子ども。
厳しく過酷な生涯なのに、なんでこんなに純情なのか。
ああ仏さま。大自然の華厳よ。
山の命たちに冥加あらせたまえ。
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■南無華厳 狼山道院■
≪ 2012:04:22 ≫