<<それぞれの犬の体力>>
犬には、それぞれの体力がある。
生来的に体力の大きい犬もいるし、
体力の小さい傾向の犬もいる。
子犬時にそれを見極めて、
その体力に見合った養育をしていく。
ただし体力の小さかった子でも、
時間を掛けて徐徐にだんだん少しずつ、
ある程度は体力を大きくしていくことはできる。
飼主が大変なのは、体力の大きい子犬である。
身体の中のエネルギーが大きい子犬である。
そういう子の身体の要求に応えるのは、
なかなかに大変な日課である。
しかしそれにちゃんと応えてやれば、
その子は将来、無類に丈夫な身体となる。
ちょっとやそっとのことでは失調しない犬となる。
昔、エアデールの雄の子犬を飼い始めた人に出会った。
一目で、その子犬が「エネルギーの大きい子」だと分かった。
心の中で、「この飼主だと、この子犬はちょっと不憫だな」と思った。
おそらくこの子犬の持つエネルギーを理解できないと感じたのだ。
その後の飼い方を見たが、その予感は当たっていたのである。
まず、「しつけ」の認識が著しく的外れだった。
飼主に聞くと「ブリーダーから躾方法を指南された」という。
おそらく、「エネルギーを閉じ込めて圧制する方法」であろう。
見ていると、相手は子犬なのにやたらと禁止事項が多かった。
見る限りでは、その子はその飼主を心から慕ってはいなかった。
それでもその子は賢い子らしく、相当に言うことを聞いていた。
「この子は、ただこうやって成長していくのか・・」と思うと、
たまらなく不憫でならなかった。
その子犬は相手が私だと、犬が変わったように生き生きした。
私が相手になると、途端に満面の笑顔に変わった。
そして日頃は見せない躍動を見せてくれたのである。
その光景を見て、飼主は実に迷惑そうな顔になった。
その顔は、「躾が台無しだ!迷惑だ!」と語っていた。
私は飼主の本心が読めていたので、ほどほどで切り上げた。
こういう飼主が多いだろうと感じた。犬が哀れでならない。
ところで子犬を家の中で育てる場合には鉄則がある。
遊ばせる場所には「余計な物は置かない」ということだ。
遊ばれて困る大事な物は、全て撤去しておくということだ。
それを徹底しないと、飼主の余計な「叱責」が発生する。
この「余計な叱責」が、問題となるのである。
本来なら叱らなくても済むものを、
いちいち叱らなくてはならなくなることが、
実に「余計なこと」なのである。
だから子犬を迎えるのならば、
「そのスペースが確保できるか?」が重大条件となる。
多くの飼主が勘違いしているようだが、
子犬期に存分にエネルギーを発揮させてやることが、
それが将来的な「飼い難さ」に結びつくことにはならないのだ。
それとこれとでは、まったく別の話なのである。
子犬が理解力を高める時期が来れば、
その時から本格的な教導に入ればいいのである。
それまでは「自然体の中で教えていく」ことが肝心なのである。
だがこの「自然体の中で教える」ことが、
飼主にとっては難しい課題なのかも知れないが。
だがそれは、飼主としてマスターしていくべきなのである。
それにしても、人人はその犬の持つエネルギーの大きさが、
自分自身で実感できないのだろうか?
あるいは、それを閉じ込め続けることに、胸が痛まないのか?
なんとか多少なりとも解放させてあげたいと思わないのか?
なんとか多少なりとも発揮させてあげたいと思わないのか?
考えてみればいい。
たとえば家の中で「いい子」を通し続け、
お散歩の時には人間の歩く速度で飼主に合わせる。
一日の内で、いったいいつ解放の時間があるというのか?
一日の内で、いったいいつ発揮の時間があるというのか?
しかしながら現代の日本の住環境では、これは無理に近いだろう。
無理に近いから、飼主に対しても無理は言えない。
だが、これだけは知っておいて欲しい。
犬たちは、相当に我慢していることを。
毎日毎日を我慢していることを。
その健気な我慢を、飼主に知ってもらいたいのだ。
これは「当たり前」のことでは無いのである。
飼主が「当たり前」だと思った瞬間に、対話は不可能になる。
そもそも、犬と人間とでは「歩く速度」も違う。
人間の歩調など、犬にとっては超低速なのである。
だから人間速度の散歩に合わせることからして大変なのだ。
だが犬は飼主に合わせて歩いてくれるのである。
その「配慮」に対して、飼主は感謝すべきなのである。
感謝も無しに、高慢に当然のごとくに「ヒール!」では、
それでは犬の立つ瀬が無いと言うものだ。
飼主が「本来の犬の事情」を心から理解できると、
犬の行動も変わっていくのである。
飼主へのリスペクトが高まると、犬は変わるのである。
最も重大なのは、「飼主の心の中」なのである。
犬はそれを直観で読み取っていくのである。
もう少し言うならば、
飼主の「姿勢:挙動:動作:声調:呼吸」も肝心である。
「テクニックうんぬん」を考える前に、
まずは自分自身の姿勢を整えるべきである。
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2012:01:19 ≫