** K A E D E **

あれから、21年になる。
楓の亡骸を抱いて、空を見つめていた。
仰向けになって胸に楓を抱いて、
木木の間の空を見つめていた。
今もなお、あの日の空の色を忘れない。
今もなお、楓の瞳の輝きを忘れない。
歩ける身体では無かったのに、どうやって生きてきた?
物を食べれる口では無かったのに、どうやって生きてきた?
気も狂わんばかりの痛みを、どうやって耐えてきた?
泣き叫びたいほどの孤独を、どうやって耐えてきた?
両前脚が折れて、アゴが折れて、
それが折れたままにくっついて、
その折れ曲がった身体で歩いていた。
その身体を見た時、辺りが真っ赤に染まった。
私は言葉を失い、茫然と立ち尽くした。
楓は、天使のような微笑で、私を見上げていた。
天使のように優しい瞳で、私を見つめていた。
その日から、楓は我が子となった。
まだ乳歯の、子犬だった。
生まれて四ヶ月くらいの、女の子だった。
部屋で一緒に寝ていると、
いつまでもいつまでも私の顔を見つめていた。
あれほどの苦難を背負いながら、
楓は誰も恨んでいなかった。
運命さえも恨んでいなかった。
ほんとうに、天使のような瞳だった。
ほんとうに、天使のような微笑だった。
楓は、花と一緒に天に帰った。
楓は、命の凄さと尊さを教えてくれた。
楓は、私を導いてくれた光の導師。
これからもずっと、楓とともに突き進む。
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2011:10:13 ≫