<< 森のラップ音 >>
 
昨夜の森は、ラップ音が凄かった。
二度や三度の衝撃音ではない。
ずっと鳴り止まないのだ。
東西南北。四方八方。
あらゆる方向から、ラップ音が鳴り響く。
夜の森に、不思議音響が鳴り響く。
 
犬たちの世話を開始する前から鳴っていた。
運動を終えても、まだ鳴っていた。
犬たちは普段通りに自然体である。
彼らもまた、ラップ音には慣れているのだ。
というよりも、彼らはラップ音を知っているのだ。
世話を終えて森に坐り、私はラップ音に耳を傾けた。
 
ラップ音にもいろいろあるだろうが、
この森のラップ音は、荘厳でダイナミックである。
そしてこの森では、ラップ音は日常の普通現象である。
20年前に初めてここのラップ音を聞いた時には、
まったく「?????」だった。
最初は銃声の音かと思ったが、
四方八方あちこちから銃声が鳴る訳がない。
だいいち、辺りに誰一人いないのだ。
もし人の気配があれば、犬たちが教えてくれる。
人間がいないのに、銃声が鳴る訳がないのである。
もちろん、木の倒れる音でも無い。
木が裂けたり折れたりする音でも無い。
だいいち四方八方で、そんなことにはならないだろう。
そんな異変ならば、山の散歩の時に一目瞭然である。
どう考えても、思い当たらない。
いったい、何の音なのか??
春でも。夏でも。秋でも。冬でも。
朝でも。昼でも。夜でも。夜中でも。
季節を問わず、時間を問わず、
四方八方のあらゆる方向から鳴り響くのである。
しばらくしてから、
これが「不可思議な音」なのだと分かった。
人間の思議を超えた音なのだと分かった。
それに関する資料の類には、いろんなことが書いてある。
いずれにしても、霊的な現象らしい。
霊からのサインだとか。霊が現われる時の音だとか。
そんなようなことが書かれているが、そうとも感じる。
とにかく独特の気配を伴っているのだ。
そして独特の緊張感に満ちている。
この森のラップ音には、いっさい邪気が無いが、
邪気が無いどころか、清冽で荘厳な響きだが、
きっと素晴らしく高次元のスピリットだと思う。
 
ところでラップ音の後に、
大型の山獣が近付いてくる場合も多かった。
遠くから枝を踏む足音が近付くのである。
かすかな音だが、静寂の中だから聴こえるのだ。
数年前は、まさに熊が訪問した。
バキッ!!バキッ!!という音が、
だんだん近付いてくるのであった。
そしてついに、私の目の前まで来たのである。
闇の中でも、その圧倒的な「塊り感」が伝わってきた。
かなり大きかったから、成獣だと思う。
とにかく、大型の野性の迫力は凄いものである。
眼前二メートルまで迫られ、圧倒されてしまった。
しかし熊は、そこで立ち止まったのである。
そして何事も無く、帰って行ったのである。
訪問は二週間ほど続いたが、
最後の日に、私は「光の熊」を見た。
崇高な「光の熊」に、激しく胸を打たれた。
熊はなぜ、ラップ音と共にやって来たのか。
意味深いメッセージだったように感じる。
そのとき熊の心が、分かったのだ。
 
それにしても昨夜のラップ音は凄かった。
あんなに続いたのは滅多に無い。
微妙に違う音色の衝撃音が、次次と鳴り響く。
前方から。後方から。右方から。左方から。
これは何か重大な伝言なのだろうか。
大自然の聖霊からの伝言なのだろうか。
森に坐り、一心に華厳の祈りを捧げた。
野性界の寺として、一心に祈りを捧げた。
 
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2011:09:20 ≫