** 心 の 歌 **

前記事で、犬舎に寝る話をした。
私が犬舎で寝る夜は、
犬たちがとても喜ぶ。
どのくらい喜ぶかというと、
たとえようも無いくらいに喜ぶ。
騒ぐ訳では無い。静かにしている。
だが全員が、じっと私を見つめている。
暗闇の中で、ずっと私を見つめている。
しばらく皆が、無言である。
無言の時が過ぎていく。
すると誰かが、そっと語り出す。
人間の言語では無いが、
紛れも無く、語り出すのである。
遠吠えとも違う。
遠吠えにはいろんな種類があるが、
だが遠吠えとは少しニュアンスが違う。
遠吠えのような声だが、もっと抑えた声である。
もっと密やかな声で、静かに語り出すのである。
ただ声を出すのでは無い。
そこには繊細な抑揚があり、
そして旋律になっているのである。
それは実に、切なくナイーブな旋律である。
誰かが低く語り出し、
そしてしばらくして、ほかの誰かも語り出す。
ほかの誰かは、全く違った旋律で語り出す。
そうすると今度は、またほかの誰かが語り出す。
それもまた、全く違う独特の旋律である。
そうして皆が、語り出す。
そのそれぞれが、全て独特の旋律である。
それぞれに、微妙極まる表現で語るのである。
それは、まったく神秘的なひと時である。
彼らは紛れも無く、
心の言葉で語っているのである。
切ないほどにナイーブな旋律に乗せて。
そうして最後のころに、それがホウルになる。
慕情のホウルのコーラスで終わるのだ。
それはまさしく、心の歌である。
心の奥底から湧きあがる、心の歌である。
彼らが何を語っているのかと言えば、
「おとうさん・・・・おとうさん・・・・おとうさん・・・・」
ただそれだけである。
それが彼らの想いのすべてである。
その想いのすべてを込めて、
心の歌を歌ってくれるのである。
歌い終わった後も、
彼らは長い間、静かに私を見つめている。
蒼い闇の中で、じっと私を見つめている。
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2011:07:31 ≫