***≪最期の真情≫***
 
私は犬たちの最期を看取ってきた。
そして狼の最期も看取った。
彼らの最期を看取る時、
彼らの真情の本当の姿を見た。
その時には、もう言葉が出てこない。
それはもう、言葉を超えた世界。
魂が震えて、地にひざまずく。
ただただ合掌する。
 
死のその時まで、前を見据え続けた狼。
最期の力で、はるか正面を見据え続けた狼。
ただ一言の声さえ洩らさずに耐え切った狼。
己の誇りの全てで死と対峙した狼。
死の寸前、最期の力で、
私に別れのホウルを歌ってくれた狼。
ホウルを歌う力など、
もはやどこにも残っていなかったはずだ。
 
我が子を護るために命を賭けた白い柴犬。
何倍も大きな相手に果敢に挑んだ母犬。
私の留守中に子犬が数十センチの深い穴を掘り、
保護した闘犬種のいる隣の犬舎に入ってしまったのだ。
ブロックを埋めて補強してあったのだが。
おそらく母犬は、子犬救出のために、
その穴を広げて自らもその犬舎に入ったのだ。
到底敵わぬ相手と知りながら闘ったのだ。
致命的なダメージを受けても立っていた母犬。
壊れた身体で、私の帰宅を待っていた母犬。
壊れた身体で私を出迎えてくれた母犬。
獣医に「この犬、鳴かないね」と言われた母犬。
致命傷を受けても一言も泣かなかった母犬。
診察台で、最期の力で毅然と立っていた母犬。
そしてその夜に死んだ母犬。
自らの命を我が子に捧げた母犬。
私は亡骸を抱き締め、月を仰いだ。
月を仰いで、私は大声で泣いた。
「夕月」の名を叫びながら。
夕月の子は、13歳になる。
その子のそばに、白い光が現われる。
今でも白い光が現われて、その子を見つめている。
 
保護した「楓:かえで」。
両前足とアゴが、折れたままにくっついていた。
その身体で、道路の端をヒョコンヒョコンと歩いていた。
私は車をバックさせて、その子を見た。
澄んだ瞳が私を見上げた。
天使のような笑顔だった。
それほどまでに壊れた身体で、
いったいどうやって生きてきたというのか。
折れた足で、這って生きてきたのか??
折れたアゴで、どうやって食べてきたのか??
どんなに痛かったか。どんなに辛かったか。
想像を絶する苦難を生きたのに、
なんでそれほどに澄んだ瞳なのか。
なんでそれほどに輝く笑顔なのか。
私は楓を抱き上げた。
その瞬間から、楓は我が家族となった。
まだ生後四ヶ月くらいの女の子だった。
まだまだ子犬の匂いで一杯だった。
私は楓を抱いて寝た。
その身体を撫でながら寝た。
この一瞬に、
自分の愛の全てを捧げようと、
その一心で一緒に寝た。
一瞬の中に永遠を刻もうと、
その一心で祈りを捧げた。
目を開けると、楓が私を見つめていた。
澄んだ瞳で、輝く笑顔で、私を見つめていた。
楓が死んだ時、
地が裂けるような衝撃が身体を貫いた。
最期の時も天使の瞳で、別れを告げてくれた。
楓を埋葬した時に植えた花が、翌日消えていた。
誰も入って来ない森なのに。
どこを探しても、花は見つからなかった。
楓は、花と一緒に天に昇ったのだ。
仏様と花と楓が、一緒に旅立つ夢を見た。
あれから二十年が経つ。
今でも楓を、近くに感じる。
今でも私は、楓と共に生きている。
 
これまで、多くの命を看取ってきた。
どの子もみんな、立派な最期だった。
小さなMIX犬も大きな北極犬も、
みんなみんな、立派な最期だった。
みんなみんな、愛と勇気に満ちていた。
命たちを看取りながら生きてきた。
その最期を見届けて生きてきた。
彼らが命の全てで伝えてくれた真情を、
言葉にできない真情を、
それでも何とか言葉を探し、
拙い言葉になってしまうが、
こうして詩編に書いてきた。
 
≪南無華厳 狼山道院≫
::2011:03:26::