***≪野性の葛藤≫***
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野性たちに、葛藤がある。
本能とは別の領域で、葛藤する。
分かり易くするために「別の領域」と言ったが、
本当は、本能の深くに潜んでいるのだろう。
それが表面に現われることもあれば、
現われないこともあるだろう。
 
野性の本能を、
ただ生き延びること・・・
ただ種の存続を果たすこと・・・
そう思っている人は、
野性の葛藤など到底信じないだろう。
バカバカしい!!の一言で終わるだろう。
だが野性たちに・・・・葛藤がある。
 
人間に、心がある。
人間の心に、葛藤が起こる。
それを疑う人はいないだろう。
だが野性たちにそれがあると言えば、多くの人が疑うだろう。
だが人間にそれがあるように、野性たちにもそれがあるのだ。
 
私は、ある悲しい話を知った。
アフリカのサバンナでの実話である。
ある雌ライオンとオリックスの赤ちゃんの物語である。
因みにオリックスというのは、牛科の草食獣である。
肉食獣のライオンと草食獣の赤ちゃんのドラマである。
私はその記事を一目見た瞬間に、結末が分かった。
一目見た瞬間に、雌ライオンの深い葛藤が伝わってきた。
そしてどういうことになるのかが、一瞬に胸に浮かんだ。
悲劇は避けられないことが、分かったのだ。
 
一頭の雌ライオンが親とはぐれた赤ちゃんオリックスと出会い、
その赤ちゃんを護るように、いつも寄り添っていた。
その赤ちゃんは普通ならば当然「食糧」なのだが、
その雌ライオンは食わないどころか、家族にしたのだ。
だがもちろん、環境がそれを許さない。
自然の構造が、それには対応しないのである。
構造的に、それは最初から不可能だったのだ。
雌ライオンは、もちろんそんなことは知っている。
それが決して叶わぬ願いだと、知っていたのである。
知ってはいたが、雌ライオンは放っておけなかった。
赤ちゃんを何とか助けてあげたかったのだ。
「本能に逆らって」・・ではなく、
本能の奥深くの何かの声を聴いたのだ。
そこには是非など微塵も無い。
「是か非か」などという幼稚な次元では無いのである。
だいいち、苦しむのは当の雌ライオンである。
その苦しみの深さは、誰にも分からないのである。
 
雌ライオンも赤ちゃんも、
二週間以上も飲まず食わずだったようである。
赤ちゃんはまだ乳飲み子だから草は食えないのだ。
よくその赤ちゃんが生きていたものだ。
どれほど空腹だったことか。
それを想うと、ただただ涙が出る。
雌ライオンも同様だ。
身体は痩せ衰え、虫が一杯たかっている。
身体が弱ると、虫がたかるのである。
虫にたかられる身体を見て、
相当に衰弱していることが一目瞭然だった。
痩せて弱り果てた二頭が、ぴったりと寄り添っている。
 なんと悲しい光景か・・・・・
もう、見ていることが辛かった。
辛かったが、見届けようと決意した。
 
その二頭を観察している動物学者がいた。
やさしい気持ちに満ちた女性である。
だが私は思った。
その人は、雌ライオンの深い葛藤に気付かずにいると。
その葛藤に気付かずに、
どうすればいいのか分からずにいると。
暗中模索の中で、ただ見つめるしかなかったと。
そうして遂に、悲劇の日が訪れた。
どこからか来た雄ライオンが、
雌ライオンから赤ちゃんが少し離れた隙を見て、
赤ちゃんを奪っていってしまったのだ。
そして・・・・食べた。
赤ちゃんの小さな悲鳴が、耳を去らない。
雌ライオンは、ただ茫然と見つめていた。
もはやどうにもならないことが分かっていたのだ。
たとえ自分が立ちはだかっても、
雄ライオンに一撃で倒されることを知っていたのだ。
それほどに、ライオンの雄と雌とでは力が違う。
話にならないほど力の次元が違うのだ。
ましてやその雌ライオンは衰弱していたのである。
雌ライオンは最初から、悲劇の結末を予感していた。
その予感が現実となる日が、とうとうやってきたのだ。
その雌ライオン「ライオネス」は、その後に姿を消したという。
私が感じるに、
おそらくライオネスは、他の猛獣に殺されただろう。
深い葛藤を抱えた雌ライオンが生きていける可能性は薄い。
ライオネスは、
自分もまた食われる運命にあることを予感していただろう。
 
ふたつの魂は、別の世界で再会するだろう。
ふたつの魂は金色の光に包まれて、
涙ながらに抱擁するだろう。
私は、それを信じている。
それを信じ、それを祈り続けている。
ライオネス・・・さぞかし辛かっただろう。
赤ちゃん・・・よくぞ頑張ったね。ほんとうに。
ふたつの魂は無限の愛の世界で固く抱きあう。
**** 南無華厳大悲界 ****
 
なお、このような実話は、
雌ライオンに限ったことではない。
雌ヒョウでも、同様の話があるのだ。
ヒヒの子を護ろうとしたヒョウもいる。
ライオンの子を育てようとしたヒョウもいる。
だが、いずれも悲しい結末に終わった。
雌ヒョウの深い葛藤が、この胸に突き刺さる。
ああ・・・野性たちよ。
その深く悲しい葛藤に、大悲界の冥加あれ。
**** 摩訶華厳玄導冥加 ****
 
≪南無華厳 狼山道院≫
::2011:03:24::