≪ チ コ と 鮫 :: 黒 い 雄 牛 ≫
 四十何年前の話である。
確か小学二三年の頃に、表題の映画を観た。
この二本の映画は、強烈に胸に刻まれている。
これは、本物の愛と勇気の物語である。
 
*** チコと鮫 ***
<イタリア:米国 1962年制作>
南海の島、タヒチ。
少年は、鮫の赤ちゃんを見つけて助ける。
海辺に大きな池を造り、赤ちゃんを育てる。
毎日毎日、少年は世話を欠かさない。
少年は赤ちゃんに「マニドゥー」と名付ける。
「マニドゥー」・・・いい名前だ。
赤ちゃんは、どんどん大きくなっていく。
どうやら、島民たちが怖れる獰猛な大型鮫の子供らしい。
少年と子鮫は毎日、海で冒険した。
子鮫は少年を、いろんなところに連れて行ってくれた。
だが子鮫がかなり成長した或る日、子鮫は突然、姿を消す。
どんなに探しても見つからない。
少年は、とてもとても悲しんだ。
十年後・・・少年は逞しく成長した。
そして或る日、漁の最中に巨大な鮫に出会う。
漁師たちは銛を打とうとする。
だが少年は彼らの攻撃を制止し、巨大な鮫に近付く。
少年には分かった。
それが「マニドゥー」だということを。
少年とマニドゥーは、十年ぶりに再会したのだ。
その時の両者の驚きと喜びは、言葉にできないほどだった。
だがもはやこのタヒチでさえ、
少年と大鮫が一緒に暮らせる場所など無かった。
観光の波が押し寄せてきたのだった。
そして少年は決断した。
マニドゥーと安心して暮らせる孤島を探そうと。
少年にはガールフレンドがいたのだが、その少女も決意した。
二人とマニドゥーは、孤島を探す旅に出発した。
 
なんでこんなにも切なくなるのか。
大鮫なので、よけいに切なくなる。
「マニドゥー」という名に泣ける。
少年と大鮫の純情に泣ける。
少年と少女の勇気と決断に泣ける。
これは私にとって、永遠の名作である。
<驚くべきは、サメが犬のように少年に懐いていることだ>
  
*** 黒い雄牛 ***
<米国 1956年制作>
 メキシコの片田舎。嵐の夕方。
少年は大木の下敷きとなった母子牛を発見する。
少年は子牛を助け出し、抱いて家に連れ帰る。
少年は子牛に「イタノ」と名付ける。
「イタノ」・・・いい名前だ。
イタノは、「闘牛」の子供だった。
闘牛種は普通の牛とは違う。
闘牛の歴史を背負っているから勇猛である。
少年は毎日毎日、イタノの世話をする。
イタノはどんどん大きくなっていく。
少年とイタノは、深い絆で結ばれていく。
少年はイタノを愛し、イタノも少年を愛した。
イタノが少年をピューマから守ったこともあるほどだ。
だが或る日、事態が急変する。
事情でイタノが奪われてしまう。
そして闘牛場に送り込まれてしまった。
闘牛場で闘えば、そこを生きて出られることは無い。
闘牛は、そこで死ぬ運命にあるのだ。
少年の胸は張り裂けそうになる。
だが少年は、あきらめない。
大統領に頼みに行く。
大統領は胸を打たれ、少年の嘆願書にサインする。
少年はその手紙を手に闘牛場に走る。
だがすでに、闘牛は始まっていた。
イタノは果敢に闘っていた。
次次と勝ち、そして花形闘牛士との闘いとなった。
息詰まる闘いが続く。
イタノは、堂堂と雄雄しく勇敢だった。
だが闘牛の運命は、ここで死ぬことだった。
生きて出られることは無いのだ。
しかし・・・イタノの勇姿が、観客の胸を打った。
場内に、「インダルト!!」の合唱がこだまする。
インダルト・・・本物の勇者に対する、恩赦の嘆願である。
その勇敢な牛を赦してやれ!!と、観客が叫んでいるのだ。
恩赦は聞き入れられた。
だがイタノは、なおも闘牛場に踏みとどまる。
イタノは最初から、命懸けの覚悟だったのだ。
その時、少年が闘牛場に駆け降りた。
「イタノ !!!!!!! イタノ !!!!!!!」
イタノの名を叫びながら、獰猛な闘牛に駆け寄っていく。
観客たちが驚く。固唾を呑んで見守る。
渾身の力を使い果たし、
息も絶え絶えになったイタノが、少年を見つめる。
少年は、傷ついたイタノを、胸に抱きしめた。
 
これは、勇者の物語である。
少年も牛も、共に勇者である。
真実の愛を支えに、雄雄しく闘い抜いたのだ。
少年が「イタノ!!」と叫ぶシーンが、忘れられない。
今もなお、そのシーンを憶えているのだ。
これは私にとって、永遠の名作である。
 
≪南無華厳 狼山道院≫
::2011:02:22::