≪ 山 の 友 達 ≫
冬は、山の友達の来訪がすぐ分かる。
雪に足跡が付いているからだ。
このごろ、カモシカの来訪が多い。
以前の記事で、
「コタ」の真近までカモシカが来ていることを書いた。
今回はコタの近くではなく、みんなの真ん中に来ている。
みんなが居る犬舎と犬舎の間に来ているのだ。
そして今回は、「子供のカモシカ」のようである。
親の足跡よりも相当に小さいのだ。
私がそこに居る時には、近くまでは来ない。
犬舎から20mほど離れた場所に佇む姿を見たことがあったが、
真近まで来たことは無いのである。
やはり私は、犬たちには到底かなわない。
犬たちの「自然体」には、どうにもかなわない。
私がそこに居なければ、
カモシカはこんなに真近まで来ているのである。
いったい、何をしに来ているのだろうか。
もちろん、食糧を求めてでは無い。
カモシカの食べ物など、ここには無いのである。
それではいったい・・・・
まさしく、遊びに来ているのである。
犬たちに逢いに来ているのである。
犬たちは、さほど興奮していない。
帰山して犬たちの様子を見れば、
彼らが興奮していたかどうかは一発で分かるのである。
おそらく犬たちは、カモシカの来訪に慣れているのだろう。
その「友達」と、静かに交感しているのだろう。
もし映像を撮れたなら、凄い光景だろう。
こんな光景が繰り広げられているんだ!!と唖然となるだろう。
子供のカモシカ・・どんなに可愛いだろう!!
しかしいいのだ。
犬たちがすべてを知っているのだ。
私は彼らから話を聴くだけでいいのだ。
昨冬は、イノシシの足跡が多かった。
やはり子供の足跡が近くまで来ていた。
「親」がそれを許しているということは、
親が「安全」だと判断したからだろう。
そうでなければ、子供を近くまで行かせたりはしないのだ。
深夜に私が独りで散歩している時に、
一頭の子猪と出会ったことがある。
どうやらその子も、独りで散策していたらしい。
身体は太っていたから、いつもは家族と一緒なのだろう。
私を発見すると、その子は瞬間に不動状態になった。
ほんとうに、微塵も動かないのである。
何分間もフリーズしたままなのである。
それは実に美しい光景だった。
まだほんの子供のイノシシが、野性の本能の声を聴いていた。
その子は、「動いてはいけない・・」という声に従ったのだ。
もちろん、私も動かない。
私もずっと不動のままだった。
その子はそして、私を認めた。
私を認めた後は、元通りにリラックスした。
私は時間を忘れて、蒼い闇の中の子猪を見つめていた。
なんというか・・とにかく物凄く可愛い!!のであった。
それと同時に、その子の中の幼き野性に感動したのだ。
以前「レン」と手綱散歩している時に、
イノシシ家族と接近遭遇した。
レンは彼らと別れる時、愛しそうに遠吠えで歌った。
レンは不思議なほどに慈愛に満ちた犬だったのだ。
母イノシシは大きかった。
そして何頭かの子猪が一緒だった。
その夜の子猪は、その中の一頭だったと思われる。
数年前は、クマの来訪が続いた。
「ジン」の直近の囲いが壊れていた。
ジンは係留の状態であった。
つまりジンは、繋がれたままにクマと超接近遭遇したのである。
因みにジンは柴犬サイズであるから、
自分の数倍以上の巨体に迫られたのである。
その時のジンの心境は、いったい・・・・
帰山した私は驚いた。
よくぞ何事も無く・・・と驚いた。
私はジンを深く観察した。
だがジンは、微塵も脅えていなかった。
その後も、脅える様子など一度も無かったのである。
つまりジンは、まったく平気だったのである。
犬たちには、まったく感服する。
私が初めてクマに2mまで迫られた時には、
途轍もなく緊張したのであった。
あの「塊り感」は尋常ではなかった。
まさしく「力の塊り」そのものだったのだ。
そしてあの野性独特の凄味と威圧感に圧倒されたのだ。
それを想うと、犬たちは本当に大した度胸である。
というか、彼らはつまり「分かっている」のであった。
「タケル」などは、夜にクマの気配が近付いた時、
フェンスを飛び越えて猛然とクマの元へ遊びに行ってしまった。
もちろん私はハラハラした。
そして即座に呼びを掛けた。
そうすると、はるかから、息を切らしてタケルが戻ってきた。
彼は満面の笑顔で戻ってきたのであった。
因みにタケルも柴犬サイズである。
※ところで、前にも書いたが、
狼や狼犬や北極犬の猛者連中がいるころは、
クマも遠慮して来なかった。
彼らが他界してから訪れるようになったのである。
ようするに我が家の犬たちは、山の友達が一杯いる。
まったく、犬たちにはかなわない。
彼らは私の先生である。
犬は本来、「狩猟獣」である。
だが、それだけではない。
犬たちは、その本能だけで生きている訳ではないのだ。
彼らには、その本能とは別の領域が存在するのである。
彼らと交感を続けていれば、それがありありと実感できる。
その「別の領域」は、まことに凄い世界である。
その凄い世界を、これからも実体験していきたい。
≪南無華厳 狼山道院≫
::2011:02:10::