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<2010年9月27日>

「カン:悍」という家族がいる。

紀州犬に似た柴MIXの犬だ。

もうすぐ13歳だが、元気満満だ。

彼のそばに、たまに白い光が訪れる。

その光が来ると、カンの顔が変わる。

遠い目で、ただただ厳かに厳かに、その光を見つめる。

その光は、彼の母犬の「夕月」だと感じる。

彼の様子を見ていれば、その光が特別な存在であることが分かるのだ。

夕月・・・胸に熱い慕情が込みあげる。

夕月・・・我が子を救うために、自らの命を賭けた偉大な母。

夕月・・・小さな身体に不撓の精神を秘めた最愛の我が子・・・・・・

カンが、心で泣いている。

母への想いで、心で泣いている。

普段の彼が、そんな表情をすることなどは無い。

それは彼の、特別な感情の顔だったのだ。

その顔を見ていれば、我が胸もたまらなくなり、涙が落ちる。

やがて、その白い光が消えてゆく。

カンはまだ厳かな姿勢のままで、はるかを見つめる目で、そこに佇んでいる・・・・・

だが彼は、後追いはしない。

ぐっとこらえて、光を見送っている。

己自身の、今生での使命が残っているからだ。


いろんなことがあった。

この長い歳月の中で、悲しいことも、いっぱいあった。

忘れようにも忘れられない、心に刻まれた一瞬一瞬。

森の中で、地に伏して泣いた。

血の出るほどに拳を握り締め、声をあげて泣いた。

この自分がどんな苦行を背負ってもいい、この子の命が戻るなら・・・・・

張り裂けそうな胸に亡骸を抱きながら、天に祈った・・・・・

そのような歳月を辿ってきた。

そのような歳月の中で、私は教えられた。

命のことを。生きることを。死ぬことを。命の行方のことを・・・・・


森に坐って瞑目する。

過ぎし日の一瞬一瞬が、まるで今この瞬間のように蘇る。

微塵も色あせず、微塵も輝きを失わず、鮮烈に今に蘇る。

あの一瞬は、死んではいないのだ。

あの一瞬一瞬は、永遠の中に刻まれているのだ。

それが分かる。それがありありと実感できる。

過去を引きずる意味では無い。

過去に囚われる意味では無い。

想い出に縛られる意味では無い。

想い出に彷徨い続ける意味では無い。

そのような意味とはまったく違う意味だ。

想い出の中に生きるという意味とは違うのだ。

あの一瞬一瞬は、その瞬間に永遠へと昇華した。

あの一瞬一瞬に、真実が秘められていたから。

その真実が、永遠となったのだ。

真実は一切の枠を超えて無限となり永遠となる。

願望で話しているのではない。

夢想を話しているのではない。

言葉にすると観念的になってしまうが、これは観念では無い。

観念で語ることなどできない世界なのだ。

これはあくまでもどこまでも実感の世界なのだ。

命に終わりは来る。

人はそれを儚いと言う。

だが真実に終わりは無い。

命の真実は、永遠の中に刻まれる。

それを心で知ることが、生きるということか・・・・・

命の真実を心から感じることが生きるということか・・・・・


たとえ何十年であったとしても、それが何日であったとしても、

いずれにしても大宇宙のスケールからすれば「極微」の世界である。

いずれにしても極微短の時間なのである。

つまり、時間の長さでは無いのである。

つまりは一瞬一瞬の中に秘められた真実なのである。

・・・極 大 極 微 念 劫 融 即・・・・・・

何十年であろうと、何日であろうと、真実の重さに変わりは無いのだ。

たとえ何日間であろうとも、その瞬間の真実は、大宇宙に燦然と輝いている。

命の真実は大宇宙に刻まれ、はるか永遠に輝き続けるのだ・・・・・

一瞬一瞬の中の真実を信じて生きる。

動物たちはみんな、そのように生きている。

だからこそ彼らは命の力に満ちている。

命尽きるまで、全身全霊で、命の炎を燃やし続ける。

それを信じることが、自らの生命力を支えているのだ。


今は亡き我が家族たち。

私は今でも、彼らと共に生きている。

私はいつでも、彼らと逢うことができる。

彼らの鼓動を感じる。我が胸に彼らの鼓動を感じる。

たとえ彼らが宇宙の彼方の異次元世界にいようとも、

我われはいつでも瞬時に逢うことができる。

はるかな距離を超越して。はるかな次元を超越して。

それが我われの絆の真実だ。

もしそれが偽りの絆だったら、逢えないだろうが・・・・・

今は亡きみんなが教えてくれたのだ。

彼らが、その命のすべてで、この私に教えてくれたのだ。


かえで!!かえで!!お前の鼓動を感じる。

お前が教えてくれた命の真実が、この胸に刻まれている。

かえで・・・お前は今、光に満ちた世界にいるね。

お前は、その心そのものの世界にいるね・・・・・

命はこの世を去り、「心そのものの世界」に旅立つ。

今は亡きみんなが、それを教えてくれた。

心そのものの世界・・・この大宇宙に、それがあることを・・・・・・


南無華厳・・・南無華厳大悲界・・・・・・


■南無華厳 狼山道院■