



犬の運動能力も凄い。
日常の中では彼らは本領を見せないが、
いざという時には潜在力を発揮する。
だが日常の中ではその力を見せないから、
飼主さえも愛犬の能力を知らないのではないだろうか。
どうも犬の能力は、世間から低く見られているような気がする・・・・
これまで幾多の犬種と運動を共にしてきた。
皆それぞれに、見事な能力を見せてくれた。
たとえば・・思い出してみると・・・・
E・マスティフの怪力。ブル・マスティフの底力。
ピットブルの強靭なバネと驚異的な持久力。
ボストンテリアの、機械仕掛けのような不思議な動き。
ボルゾイの風のような疾走。
純フィールド系黒ラブの、とんでもない集中と執念とエネルギー。
フラットコーテッドの、ダイナミックな躍動と集中力。
北極エスキモー犬の、信じがたい剛力と反射スピード。
などなどなど・・・・・・・
もう20年近く昔になるが、英国から来た「黒ラブ五兄弟」は凄かった。
その当時はまだ「ディスク・キャッチ」の競技は日本に無かったが、
キャッチとレトリーブのトレイニングを5頭一緒にトレイニングした。
とにかく彼らの執念は凄かったので、私も大いに張り合いがあった。
だが反面、彼らは無類にエネルギッシュであり、
いわゆる「ラブラドル」とは全く別種の犬だと言えた。
ラブとは体形も違うし、何より運動意欲が尋常では無かったのである。
彼らの、私の指令を窺うその瞳の、本気の眼光が忘れられない。
ボルゾイも五兄弟だったので、5頭まとめて運動した。
5頭が風のように疾走する光景を、彼らの喜びの光景を、今も思い出す。
<もちろん「呼び」は徹底した。そうでなければ、山でも「フリーラン」はさせられない・・>
フラットコーテッドも凄かった。
その雄は米国から来た。20年近くの昔だ。
彼は大型で、おそらくオーバーサイズだと思われたが、実に健全な骨格だった。
彼は主にバイクで運動した。
左手に手綱を持ち、自分の身体をやや半身にして、犬を観察しながら操縦する。
メニューは「速歩・限界速歩・疾走・全力疾走」だ。
安全のために、犬を絶対にバイクに近寄らせないことが鉄則だ。
<バイクの前にも行かせない。常に並行して走らせる・・>
そして「コーナリング」の時の手綱捌きも重大だ。
手綱を大きく伸縮させ、犬と共にダイナミックにコーナリングするのである。
このバイク運動はスピードを出すので、犬と調和しないと非常に危険だ。
だから私も犬も、共に真剣となる。
そのフラットコーテッドは、大きなストライドで、実に美しく速歩した。
そして真正面を見据える眼光は、静かな闘志に満ちていた。
いよいよ、限界速歩に挑む。
私が指示を出すと、彼は瞬時に加速する。
だが、走ってはいけない。あくまで速歩なのだ。
この「フル・トロット::限界速歩」は、非常に厳しい運動だ。
走った方が楽なくらいに厳しいのだ。だが彼は、己に挑む。
彼はこのフルトロットで、時速25kmオーバーを出した。
<もう少し出たかも知れないが、九分目位で抑えたつもりだ・・>
<普通の中大型犬で20~23km位だと記憶する・・>
しばらくそれを続けた後に、疾走へと解放する。
ギャロップに移り、そして「フル・ギャロップ」を彼に伝えるのだ。
彼はいよいよ、全身で躍動を爆発させるのであった。
<そして最後はゆっくりとキャンターさせてクールダウンさせる・・>
<心肺を鎮めた後に運動を終わることが肝心である・・>
※ここでもうひとつの「鉄則」がある。
舗装路では、「降り坂」では、絶対に走らせないことだ。
自分が「裸足」で歩いてみれば一発で分かるが、舗装路はとんでもなく硬い。
そこを「降り」で走れば、前肢と肩への衝撃は凄まじいものだ。
だから絶対にそれは禁物であり、禁止事項である・・・・・
他にもいろんな運動方法を行なったが、彼はいつも真剣に臨んでくれた。
いや、彼ばかりではない。
どの犬もみんな真剣で、そして持ち味を発揮してくれた。
和犬たちもテリア種たちもハウンド種たちも・・・それぞれに見事だった。
それぞれの個性、それぞれの持ち味に、いつも感動を覚えたのであった・・・・・
そして、「ハン」の話を書く。
やはりどうしても、彼の話を書かない訳にはいかない。
「ハン:攀」は、MIXDOGで野良犬だった。
19年前に保護して家族に迎えた。
そして16歳で他界するまで、山ほどのエピソードを刻んでくれた。
<御参照::左目次「ハン、16歳」>
彼は、車の窓ガラスを割って私を追いかけて来たこともあった。
2mのフェンスを飛び越え、あるいは鎖を引き千切り、そして私を仕事場まで追跡し、
そこのドアの外側にじっと座ったままで半日待っていたこともあった。
彼はそれほどの熱情で私を慕ってくれた。
そして彼は、比類なき能力の持ち主だった。
彼はまさに、「奇跡のMIX」だったと思う。
偶然の悪戯か?? 神がかりの配合か??
そう思えるほどの希代の運動能力を持っていた。
筋力と異常なバネと持久力と、そして圧倒的な運動神経の持ち主だった。
<因みに彼のフルトロットは、28kmだった・・>
彼の能力のエピソードを書き始めると、延延と終わらなくなってしまう。
だから今日は、これだけを書こうと思う。
ある日、山道の一直線で、
私の後ろから来たハンが、私を追い越したと同時に、
実に摩訶不思議な走法を「お披露目」してくれたのだ。
それはまさに摩訶不思議であり、前代未聞だったのである。
もちろん、狼の太郎は異次元の運動能力を見せてくれた。
だがハンは、それとも異なる別の種類の動きだったのだ。
その日の彼の走法は、口で説明するのが困難だ。
だが少しだけ説明してみる。
1m位の幅で、ずっと正確にその幅で、50m位を走り抜けた。
その両側に、あたかも壁があるがごとくに、
彼はあたかもその壁に弾かれるごとくに、
彼は弾かれて今度は瞬時に反対の壁に弾かれ、
それが物凄く鋭角に、そしてずっと物凄い鋭角のままに、
カンカンカンカンカンカン・・・・と、
両側の「架空の壁」に鋭く弾かれながら、閃光のように50mを駆け抜けたのだ。
凄いテンポで「数十の鋭角反射」を刻みながら、猛スピードで走り抜けたのだ。
瞬く間の出来事だったが、私はそれをありありと目に焼き付けたのである。
驚くべきは、彼が自分の意志でそのように走った・・ということだ。
いったいあれは、なんの表現だったのか??
いや、それは分かっている。
話すと長くなるので省略するが、要するに「彼の心の躍動」そのものだったのである。
彼は、それをそのままダイレクトに肉体で表現したのである。
そしてそれを、この私に見せてくれたのである。
あの光景を思い出すたびに、犬の潜在力の不思議に感じ入る。
それまで狼の凄さに、北極狼犬の凄さに感服していたが、
ハンによって改めて犬の凄さを思い知ったのである。
※写真が「ハン」です。トレイニングウェイトで32kg位でした。
■南無華厳 狼山道院■