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<2010年8月6日>

犬たちは、主人との「共感のひと時」が大好きだ。

いつも、そのひと時を、心待ちにしている。

家犬たちは、そのひと時を支えに生きていると言っても過言ではない。


そのひと時に、情熱を燃やす。

そのひと時に喜びを爆発させ、躍動を爆発させる。

そのひと時のために、長い長い待機の時間を辛抱する。

実際、その「待機」の時間は、とてもとても長いのだ・・・・・


仕事を終えて、森に帰り、犬舎に近づく。

犬たちは、とっくに、気付いている。

だが、とても静かだ。

だが彼らの心の念波が強烈に押し寄せる。

私は運転しながら深呼吸し、心を整える。

彼らの「期待」の気持ちがあまりに凄いので、

それに応えるために身体中のエネルギーを集中させる。

この瞬間を27年間続けてきたが、毎日毎日、新たに緊張する。

毎日毎日、新たな緊張に全身を包まれるのだ。

車を止め、無言でそこに立つ。

犬舎の犬たちは、食い入るように私を見つめている。

私は姿勢を正し、もう一度大きく深呼吸し、右手を高高と天に突き上げる。

それが私の、犬たちへの帰宅の挨拶だ。

犬たちが、「オッ、オッーーー」と喜びの声を上げる。

「お父さん、お帰り!!! お父さん、お父さん、お父さん!!!」

そこに在る言葉は、ただこれだけだ。

ほかにはなんにもない。

純粋に、ただこの気持ちだけが、そこに満ちている。

「早く散歩に連れてって!!」とか、「早くご飯にして!!」とか、

そういった「要求」の気持ちなど、そこには微塵も無い。

「お父さんが帰ってきて、うれしい!!!」・・それだけなのである。

ただただ、「お父さんが帰ってきた!! 帰ってきた!!!」・・なのだ。

あまりに純粋だから、あまりに純情だから、胸が切なくなる。

毎日毎日、その純情に応えてあげたいと、新たに思う。

疲れ切って帰宅しても、その思いが新たな力を生んでくれる。

私は、ひと呼吸置おいたあと、いよいよ犬舎の扉を開ける。

さあ、第一陣の出発だ。

頭数が多いから、何チームかに分けて運動に出るのだ。

待機する犬たちを強く見つめ、胆の底から声をかける。

「ちょっと待ってろ!!! いいな!!!!」

彼らは私の視線の意味と声の意味が分かる。

私が毅然と念を押す意味を、分かっているのだ。

そうやって、次次と運動に出かける。

時には、苦行のように感じることもある。

そういう時は、目を閉じて、初志を蘇らせる。

毎日毎日、新たな発見があるのだ。

実際27年間、新たな発見の連続だったのだ。

それを胸に蘇らせ、新たに胆に銘ずる。


運動の時、それは共感の時だ。

喜びや頑張りや集中や沈黙や爆発を、みんなで共感する。

だがその共感の時の中でも、「我が家の掟」を忘れてはならない。

みんな、それを暗黙の了解として心得ながら躍動していくのである。

すべては「暗黙の掟」を踏まえた上での表現なのである。


手綱散歩の時も、バイク運動の時も、トレッキングの時も・・・

たとえば犬ゾリの時も、ディスクキャッチの時も・・・いつも共感が根本だった。

「犬ゾリ」をやらなくなって久しいが、

北極エスキモー犬のライやオーランがいた頃は情熱を燃やした。

我われは競技に出る訳でも誰に見せる訳でもない。

ただひたすら我われ家族の「共感」の手段として、それに燃えたのだ。

ところで我われの「犬ゾリ訓練」とは、

それは無雪期の普段の運動の際に8割以上を終えている。

基本指導の他に「右!左!」や「加速・減速」などを日常の運動の中で教えた。

そして最も重大な「一体感」は、日常のどんな場面でも磨けるのである。

彼らの「闘志」は猛烈だった。

特にライは、異常とも思えるほどに闘志を燃やした。

犬ゾリの開始が近づくと、彼の瞳が緑色に燃え上がる。

私は後手に手を組んで沈黙のままに立ち、強く彼を見つめる。

「待て!!! まだだ!!!」の意味だ。

彼の全身の被毛の一本一本まで精気が満ち満ちている。

彼は「ウォーーーー」という重低音の「ロアー:猛獣の咆哮」で心境を語る。

私は無言で「まだだ!!」と念を押しながら、彼のハーネスにザイルをつなぐ。

そしていよいよ、静かにソリに乗る。

ライが「ダッシュ」に向けて、今か今かと武者震いしている。

大きく深呼吸し、そして胆からの声をかける。

「ヤーーーー!!!」・・スタートの号令だ。

ライは猛然と、その全身の力でスタートする・・・・・

まったく彼は、圧倒的なパワーの持ち主だった。

体格も大きかったが、「力の質」が独特だったのだ。

因みに彼の体格は肩高が70cm、体重は45kgだった。

秋田犬と較べてもさらに大きく見えるほどだったが、

雄の北極エスキモー犬としては普通サイズだと思われる。

なにしろ現地では55kgを超えるような個体もいたらしいのだ。

そしてライの非常な特徴は、唖然とするほど動きが素早いことだ。

実猟系中型種よりも速いくらいの、まさしくフラッシュの動きだった。

おそらく野性界で生き抜くためには、「動きの速さ」が不可欠の条件なのだろう。

大型でケタ違いのパワーで、それでいてフラッシュの速さ。

そしてさらにもうひとつ、彼は狩猟本能の塊だったのである。

だから彼の制御には非常に神経を使った。

普段は実に静かに沈着しているのだが、

彼がその超感覚で何かをキャッチした時には、極めて要注意だったのだ。

なにしろ彼の僅かな一挙動で、こちらの身体が持っていかれてしまうのだ。

だから犬ゾリの最中も、一瞬たりとも気が抜けない・・・・・

スタートしてしばらく、フル・ギャロップさせる。

まったく実にダイナミックな疾走だ。感動する!!

彼ひとりが走っているのではない。

私も一緒に走っているのである。

ライと私が一体となって走っているのだ。

だからライも、これほどに情熱を燃やすのである!!!

「ライ!! ホーーー!!ホーーー!!」・・速度を落とす。

しばらく、ゆったりと走る。

ゆったりと走っているが、彼の気持ちはいつでも準備万端に待機している。

彼の両耳はビシッと外側に向き、全方位レーダーとなりながら、私の気配を聴いている。

私の号令を待っているのである。

少しスピードを上げる。

全力疾走に移ろうとしてしまったら、「ノーノーノー!!!」と制止する。

そろそろもう一度、フル・ギャロップだ。

「ライ・・・ヤーーーー!!!!」

彼は待ってましたとばかりに、渾身の猛ダッシュを炸裂させる!!!

私もライと一緒に走っている錯覚の中にいるので、息が激しくなる。

疾走を続けるライの心臓も激しく鼓動しているので、そろそろ潮時だ。

もう今日のギャロップは充分だから、ライの身体をクールダウンさせる。

減速してしばらくゆっくりと流し、ライの息を整える・・・・・

こんなふうにして、ライやオーランと犬ゾリで一緒に走った。

ソリを曳かせているのではない・・・一緒に走ったのだ!!!

人間との生活・・・・

そこに「共感の時」が無いとしたなら、犬はさぞかし悲しいだろう・・・・・


※写真は30年前に撮影。

48kgの雄の北極エスキモー犬。

■南無華厳 狼山道院■