<2010年4月25日>

昔、アメリカンネイティヴから聞いた話がある。

その人が確かカナダを旅していたときの話だ。

その人が露天のカフェでひと休みしているとき、

大きな男が突然近づき、そのテーブルに崩れ落ちた。

その大男は、酒に酔っていた。


男はその人の目を見つめ、声を振り絞って語りかけた。

「・・あなた、狼が、好きですか・・・」

その人は男の目を見つめて答えた。

「狼は、私の家族です・・」

すると男は、大声を上げて泣き出した。

テーブルに顔を伏せ、拳を握り締めて号泣した。


男は、雌の狼を、飼っていたと言う。

いや、家族として一緒に暮らしていたという。

男にとって、可愛い可愛い我が娘だったのだろう。

その狼が、殺された。

男が出かけるとき、狼を庭につないだ。

そして男が帰ってきたとき、その狼は銃で撃ち殺されていた。

男は血に染まって息絶えている我が娘を見た。

その後にその男の人生はどうなっただろう。

そのネイティヴの前で突然泣き崩れた男の姿が、何かを語っている。


狼を好きな人など、

広大な大自然に住むカナダやアラスカの人間の中でも稀だろう。

それどころか、嫌いな人のほうが圧倒的に多いだろう。

危険で怖い。得体が知れない不気味な猛獣。

荒野の荒々しい力を身近に感じていれば、なおその感情が募る場合が多いだろう。

「繋がれている雌の狼」を銃で撃ち殺すという行為が、その一端を物語っている。

<犬も同じだが、雄と雌では、その気配がまるで異なる・・>

その男は、周囲に潜む危険な視線に気付かなかったのだろうか。

その狼は、気付いていたと思う。

狼にとっては、そんなことは朝飯前だ。

危険に気付いていても、その男に従って、繋がれたのだ。


大雪原を、高性能のスノーモビルを駆って狼を追い詰めるゲームがあるという。

狼は耐久の王者だ。

時速40km近い速度で何時間も走ることができるという。

<私も狼との運動の中で、彼の途方もない体力に、いつも唖然とした・・>

その狼の肺が焼き切れるまで、延々と追い込むという。

肺が焼け、心臓が止まるまで・・・

無雪期ならば狼は変幻自在に走れる。

速度も60km以上を出せる。

だが雪の上では、ままならない。

高性能のスノーモビルは100km近い速度を出せるらしいから、どうにもならない。

ときには子狼をそのまま轢き殺すという。

死ななければ、さらに轢く。

子狼は全身の骨を折られて死んでいくのだろう。

そのゲームは、気高い野性を嬲り殺しにして征服感を味わうものらしい。

※アジアにも、同じようなゲームがあるという。

あるいは、大草原を延々と車両で追い詰めるという。


一見、世界には大自然が残っていると思われるかもしれない。

だが実際には、たとえば狼が安心して本来の生活を営める地域など無いに等しいという。

どこもかしこも、秘境の奥地まで、人間が入り込む。

あちこちに残酷なトラップが仕掛けられ、空からはヘリや飛行機で追い回される・・・・


「NO.2」に続きます。

■南無華厳 狼山道院■