
14歳の「蓮」が、この森の厳冬を乗り越えた。
老境で短毛の彼が、零下20度を乗り越えた。
<今日も雪が降り続いているが、もはや冬の寒気には及ばない>
14歳といえば超高齢だ。
骨量の重い中型なので、人間でいえば90歳を超えていると思う。
蓮は、ほんとうに頑張った。
彼のその姿を、この胸に刻む。
だが、めっきりと筋肉が落ちた。
頑丈な体格だったのに、この一年で随分と痩せた。
食欲は相変わらず旺盛なのに、筋肉が落ちていく。
13歳までは、まだ往年の姿を残していた。
だがこの一年で、急激に老けた。
彼の顔つきが変わってきた。
以前の記事にも書いたが、蓮は慈愛に溢れた犬だ。
実にやさしい眼差しをしている。
だがさらに、何か特別の情感が彼の顔に現われてきた。
ほかの犬たちを世話していると、
じっと、まるで仏のように慈悲に満ちた表情で私を見つめている。
微笑みながら、ずっとずっと見つめ続けてくれるのだ。
※因みに彼の精神が眠っている訳ではない。その精神は元気に活動している。
蓮のそばに、仏が来ている。
いつもそれを感じている。
そのような経験は、これまでもしてきた。
ほかのみんなのときも、いつも経験してきた。
だから複雑な心境になる。
命の旅の、これは一場面だと分かっているが、それでも切なく、寂しい・・・・
私は蓮に、頑張って!!などとは言えない。
私は蓮に、少しでも長生きして!!などとは言えない。
彼を、この世に引っ張り込んでおくことなど、私にはできない。
彼の寿命は、彼のものだ。
私のものでも誰のものでもない。
彼の寿命は、彼の本能が決める。
彼の本能の一番深いところが決める。
大自然の聖なる教典、本能の導きによって、彼が自分で決めるのだ。
私にできることは、彼の心の言葉を聴くことだけだ。
この世にとどまるか、この世を去って次の旅に向かうか、それを聴くのだ。
彼は、いつでも全身全霊で生きてきた。
そして今も、全身全霊で生きている。
この世での最後まで、彼はそのように生きる。
その果てに、彼は新たな旅に向かう。
彼には、そのように重大な事情がある。
だから私は、この世に彼を引っ張り続けておくことなどできない。
私はただ、一心に彼の心の言葉を聴いている・・・・
18歳で他界した次郎も、16歳で他界したハンも、
13歳でこの世を去ったルウもロウもオーランたちも、
そしてライも太郎も夕月たちも、すべてのみんなが教えてくれた。
その別れの間際に、命の旅のことを、教えてくれた。
その命のすべてで、教えてくれた。
蓮、おまえと最後まで、一緒に生きる。
おまえの勇姿を、この目に焼き付けるのだ。
■南無華厳 狼山道院■