<2009年6月21日>

半月前、出勤の途中で、

道路に横たわる子猪を発見した。

子猪は、すでに死んでいた。

子猪の亡骸を上着に包み、車に乗せた。

仕事の時間が迫っていたので、そのまま職場に向かった。

仕事を終えて山に帰り、埋葬の準備をした。

この、人の入らない静寂の森に、この子を埋葬する。

きれいな土の上に、亡骸を横たえた。

頭胴長50cm位の、女の子の赤ちゃんだった。

小さな耳、つぶらな瞳、かわいい鼻、やさしい唇、ちいさな尻尾・・・・

その子の全身を、ゆっくりと撫ぜた。

かわいい爪の裏側に、とてもかわいい肉球があった。

やわらかなその肉球を、やさしく揉んだ。

顔は、微笑んでいた。

ほんとうにほんとうに、かわいい顔だった。


猪の母子は、一列縦隊で進むという。

この子は、列の最後にいたのだろう。

母子たちが道路を横断する時、遠くから車が迫った。

多分、車はスピードを出していた。

そして、最後のこの子が、轢かれた。

その子は、危険が迫っていることを知っていた。

だが、みんなと離れまいと、必死に走った。

みんなに遅れずに走るしか、それしか選択の余地は無かった。

母猪は、後方で我が子が撥ねられたことを知った。

だが、どうしようもなかった。

自分の後ろには、ほかの子たちもいる。

ほかの子たちも、守らねばならない。

子供たちを、一刻も早く安全地帯に導かねばならない。

母猪は走りながら、耳を後方に向け、あの子の最期を聴き取った。

心の中で泣きながら・・・・


なにかの本に、

「母は死んだ子を、胸に埋める」と書いてあった。

「自分の死ぬその時まで、呼吸のたびに、我が子を想い出す・・・」という。

呼吸のたびに、想い出す・・・・それほどの愛だという。

野良犬の母は、自分の血と肉と骨を乳に変えて子を育てる。

飢えの中で、自分の身体を削って、子を育てる。

母の愛とは、それほどの愛なのだろう・・・・


お母さん・・・

猪のお母さん・・・

あなたの子を、この静かな森に埋葬します・・・・

土の上で、線香を焚いた。

心のすべてで、祈った。

帰真帰寂帰本帰化帰元・・・

君は、君の魂は、華厳世界に帰る。

大きな光に導かれて、華厳世界に帰る。

アーヌッタラサンマクサンボーデイ

アーヌッタラサンマクサンボーデイ

南無華厳・・・南無華厳大悲界・・・・

いつのまにか、辺りは蒼い闇に包まれていた。


そして昨日、出勤の途中で、道路に横たわる子狐を発見した。

子狐は、すでに死んでいた。

頭胴長45cm位の、男の子だった。

まだ歯が小さな、幼い子どもだった。

亡骸を上着に包み、車に乗せた。

仕事の時間が迫っていたので、そのまま職場に向かった。

仕事を終えて山に帰り、埋葬の準備をした。

この、人の入らない静かな森に、埋葬する。

まだ、親離れできる時期ではないはずだ。

母狐は、どんなに心配していることか・・・・

それとも我が子の死を、知っているのか・・・・

お母さん・・・

狐のお母さん・・・

あなたの子を、この森に、埋葬します。

あなたが、呼吸のたびに想い出す我が子を、私が弔います。

かわいいかわいい、狐の子。

元気満々に駆け回っていた、小さな男の子。

その子の全身を、何度も撫でた。

口元が、やさしく微笑んでいた。

心を込めて埋葬した。

線香を焚き、全霊で祈った。

蒼い闇の中で、黙祷を捧げる。

夜の森が、荘厳なレクイエムを奏でていた。

■南無華厳 狼山道院■