<2009年4月10日>

我々は、山犬家族だ。

山の仲間たちの心を知る山の家族だ。

山の仲間たちも、我々のことを知っている。

そして我々のことを、いつも観ている。

我々の対話を、いつも聴いている。


躍動の幕開け。

犬たちは固唾を呑んで、その瞬間を窺っている。

次々と、犬舎を開ける。

みんなが、いっせいに私の顔めがけて跳躍する。

猛烈なアタックの歓迎が、延々と続く。

みんなから、顔中を舐められる。

みんなの唇を、次々と優しく咬んでいく。

みんなの唇の裏側や鼻に、この自分の唇を押し当てて、みんなの体調を確認する。

「みんな元気だな!!いつも通りだな!!安心したよ!!」

みんな、声にならない声で喜びを現わす。

「わかった、わかったよ!! さあ、行くぞ!!」

私が一歩踏み出すと、みんなが猛烈なダッシュで跳んでいく。

一頭一頭の動きを瞬時に見ていく。

一頭一頭の動きに変調が無いかを、瞬時に判断していく。

どこかに異常が無いかを、素早く深く洞察していく。

しばらく全力疾走すると、彼らも少し落ち着いてくる。

そして私を中心に大きな円を描くように散策しながら進む。

誰かが、「遠疾り」を考えている。

多少の距離なら問題はないが、その範疇を超えると問題だ。

少し遠征気味の子がいる。

彼らを呼ぶ。「あんまり、遠くへ行くなよ!!!」

「ごん!! どう!!」「ホイ!! ホーーイ!! ホーーーイ!!!」

しばらくすると、息を切らして全力疾走で戻ってくる。

そしてみんなで、犬舎の場所に帰る。

みんなに水をたっぷりと飲ませる。

「さあ、みんな、休むんだよ・・・」

「しん、てん、うみ、そら、あかね、つばき・・・・・」

名前を呼べば、みんなが次々と自分の犬舎に入る。

私は「コマンド用語」は使わない。

すべて普通に話す。

みんな、私の言葉を汲み取る。

ときには烈しく一喝することもある。

その瞬間、みんながいっせいにフリーズし、一歩も動かずに恐縮する。

だがしかし、私が、ほんの一言でも普段の声に戻れば、

まさにその瞬間に、いっせいにみんなが私の胸に駆け寄る。

みんなが、「一頭」だけの時には、対話が顕著に深まる。

たとえば一頭だけを連れて家に入るとする。

もはや私の気持ちのすべてが伝わるような次元となる。

だから本当は、そのような時間を沢山とりたいが、今は状況的に無理だ。

「誰か、一頭だけ・・・」という訳にはいかないのだ。

みんな誰もが、そのような時を過ごしたいのだ。

みんな誰もが、その時を待ち焦がれ、そして我慢しているのだ。

だからせめて、心の中で念じる。

心の中で、それぞれの名を呼び、一頭一頭と、時間を共にする。

手綱を手に取る。

誰が手綱運動に出かけるか、みんなが固唾を呑んで見守っている。

「レン、行くぞ!! カン、行くぞ!!」

みんながいっせいに興奮する。

手綱を付けて、一度立ち止まり、振り返る。

「待ってなさい!!!」

待っている子たちの心を鎮めるために、あえて力の声で呼びかける。

手綱運動で森の小道を進んでいると、

彼方から、ホウルが聞こえるてくる。

我々を呼ぶ、みんなの合唱だ。

私は立ち止まり、その歌を、心に刻む。

その歌を、山の仲間も、聴いている。

■南無華厳 狼山道院■