<2009年3月24日>

森の冬が、終わろうとしている。

日中の日差しが強くなった。

だが森は、未だに雪に覆われている。

未だに零下10度近くまで下がる夜があるのだ。

それでも、厳冬期に較べれば暖かい。

厳冬期には零下20度を超えたのだから・・・・


我が家族たち・・・本当に頑張った・・・・

今の子たちは、みんな普通のmixdogだから、

特別に被毛が厚い訳ではない。

中には被毛の薄い子もいる。

もちろん、身体は冬モードに入っているから冬毛にはなっているが、

この森の寒気は一味違うのだ・・・・

もちろん配慮はするが、過剰すぎる配慮はしていない。

それは彼らの生命力をスポイルしてしまうからだ。

そしてなによりも、彼らの体調を崩しかねないからだ。

彼らは自分で耐寒モードに入っているのだ・・・・

冬期は、食事の量を増やす。

耐寒の身体を維持するには食糧が必要なのだ。

被毛を厚くするにも、被毛に油を廻すにも、身体の熱を造り出すためにも、

食事が肝心なのだ。

だがこの冬は、例年と違った。

我々は危機に見舞われた・・・・・


秋に、車が壊れた。

どうにもならなくなった。

山間部で車が無いということは、ライフラインを絶たれたようなものだ。

仕事も生活も、すべてがアウトになった。

リュックを背負い、毎日6~8時間を徒歩に費やした。

真冬も、その生活だった。

私も頻繁に絶食が続いた。

厳寒の中での数日の絶食は、大変に苦しい。

身体が一向に温まらないし、気力も失せてくる。

犬たちも、重なる絶食を味わった。

いつもの年は、どんなに貧しくとも、犬たちの食糧は確保した。

何日自分が食わなくとも、彼らの食糧を確保した。

だが今年の冬は、それができなかった。

辛かった。

彼らの食糧が無いことが、何よりも辛かった。

我が子なのだ・・・

我が子の空腹に耐える姿を見ることが、どんなに辛いか・・・・

だが彼らは、気丈に頑張った。

一言も弱音を吐かなかった。

一言も、私に食事の催促などしなかったのだ・・・・

私は、雪に伏して泣いた。

このどうしようもない無力な私を「父」と慕ってくれる彼らの純情に泣いた。

この情けない私を信じ抜いてくれる彼らの純真に泣いた。

「最後まで、一緒だよ、お父さん!!」

彼らの声が聴こえたのだ。

本当に、彼らの心の声が聴こえたのだ・・・・・

彼らは、痩せた。

だがその痩せた姿で、背筋をピンと伸ばして、胸を張って、

しかし心配そうな瞳で、食い入るように私を見守ってくれた。

私も、痩せた。

私は、もう、絶望的な気持ちに襲われていた。

そして雪の上に倒れ込んでいた・・・・・


ある夜、森に帰る時、裏のルートを登った。

空腹と疲労で、歩くことさえ苦しかったので、それで近道を選んだのだ。

だが積雪で、獣道は消えていた。

しかも夜だから、方角が分からなくなってしまった。

長い時間を彷徨った。

息が上がり、足も上がらなくなった。

雪中のトレックは、土の上の何倍もの疲労となるのだ。

私は疲れ切って、雪に座り込んだ。

ふと、思いついた。

腹からの声で、犬たちを、呼んだ。

即座に、彼方から、彼らの声が響いてきた。

力に満ちた「ホウル」・・遠吠えの合唱だ。

それで方角が分かった。

途中途中で、彼らを呼ぶ。

すると、即座に彼らが答えてくれる。

熱いものが、胸を込み上げてくる。

我々は一体なんだと、身体一杯に感じた。

その時、「声」を聴いた。

犬たちの声ではない。

動物の声でも人間の声でもない。

言葉では表現できない声だった。

そして私は、光を目にした・・・・

言葉では表現できない。

表現できるような種類の光ではなかった。

ただ言えることは、とてつもなく崇高な光だった・・それだけだ。

その時、身体に、力が湧いてきた。

とても不思議な感覚だった。

あれほど絶望の淵にいたのに、気力が湧き上がってきた・・・・・


そして我々は、冬を乗り越えた。

犬たちの身体も元に戻り、元気満々だ。

今は朝3時に起きて彼らの世話をして、

7時半に出勤し、夕方6時に帰宅して、

そしてもう一度彼らとトレックして就寝する毎日だ。

結構ハードな日課だが、彼らの元気な姿を見れば、疲れも吹き飛ぶ。

彼らは、頑張り抜いた。

我々は一心同体となって、共に乗り越えたのだ・・・・・

私に財産など、ひとかけらも無い。

社会的立場など微塵も無い。

だが、我々家族は輝く誇りに満ちている。

この世で最高の、「愛」という名の誇りに満ちている・・・・・


※この冬、我々は、ある人に助けられた。

その救いが無ければ、我々の運命は終わっていたかも知れない。

その人だけではない。

何人もの人たちが、我々を助けてくれた。

我々は、その恩を忘れない。

我々は、その恩を胸に刻んだ。

我々は、その恩に報いるためにも、真実の絆の道を突き進む。

■南無華厳 狼山道院■