
今日は、狼「太郎」の命日だ。
4月28日に我が家族となり、4月28日にこの世を去った。
太郎の最後のホウルが、今も聴こえる。
もはや一滴の力も残っていない身体で、彼は渾身の別れの歌を歌ってくれた。
力に満ちた勇壮なホウルが、森の空気を震わせた。
辺りのすべてを圧倒するあの「狼の歌」を、最期に歌ってくれたのだ。
「お父さん!! お父さん!!!」
森のはずれで作業していた私は、その瞬間に、彼の最期を覚った。
「太郎!!!」 辺りが真っ白になった。
「太郎!!!」 我を忘れて、無我夢中で走った。
そこに、力尽きた太郎の姿があった。
「太郎!! 太郎!!!」 声を限りに、太郎の名を叫んだ。
立ち尽くした。 ずっと、立ち尽くしていた。
太郎を抱き締め、目を閉じた。 彼のすべてが、次々と心に蘇る。
彼が生後23日で我が家族となった日の夜、赤ちゃんの彼が、母狼への別れの歌を歌った。
夜中、太郎は部屋を出て夜空の見える廊下に立ち、蒼穹を仰いで勇壮なホウルを歌った。
未練の慕情の哀歌ではない。 最愛の母との、「別れの覚悟」の歌だった。
赤ちゃんの声とは信じられない重い声量で、別れの覚悟のホウルを歌ったのだ。
蒼い闇の空気を震わせて、子狼のホウルが響き渡る。
とてつもない衝撃が心を貫いた。
「これが狼か!! これが狼なのか!!!」
彼の後姿を見守りながら、私は立っていられないほどの衝撃を受けた。
悲しくない訳がない!! どんなに悲しいか!! まだ乳飲み子の赤ちゃんなのだ!!!
それなのに・・・それなのに・・・・
「狼の誇り!! 狼の誇り!!!」 心の中に、呪文のようにその言葉が繰り返される。
私は誓った。 彼を裏切らないことを。 どんなことがあっても、家族でいることを。
たとえ何が起ころうとも彼の父であり続けることを、この胸に誓った。
そして最期の時、太郎は、この私に、渾身の別れのホウルを歌ってくれた。
あの歌を忘れない。
あの歌が、いつも私を支えてくれた。
猛き純情の歌を、狼の誇りの歌を、この胸に刻んで乗り越えてきた。
苦しいとき、絶望のとき、いつもあの歌が聴こえる。
私はいつも、あの歌で我に返るのだ。 我に返り、私は自問する。
「お前、それでも太郎の父か?? お前、情けないぞ!!!」
太郎から学んだ不屈の闘志を忘れかける時、その声が胸に響き渡る。
*** S P I R I T OF THE W I L D !!! ***
「お前、忘れるな!! お前、忘れてはならない!!」
太郎の顔が浮かぶ。 みんなの顔が浮かぶ。
私を父と信じてくれたみんなの顔が、私に愛を捧げてくれたみんなの顔が心に浮かぶ。
S P I R I T OF THE W I L D !!!
野性たちを見るがいい。
いかに飢えようとも、いかに疲れ果てようとも、
いかに孤独の中にいようとも、いかに不安の中にいようとも、
酷寒の中で、吹雪の中で、何日も何日も峰峰を越えて進み続ける。
生き抜くために!! 生きる使命のために!! 己の心に響く偉大な声に応えるために!!
太郎、お前の心を、お前のスピリットを、忘れない!!
**** WOLFTEMPLE ****