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<2008年3月5日>

16歳の「ハン」が、森の冬を乗り越えた。

大型犬の16歳は超高齢だ。

彼の不屈のスピリットに感服する。

もう昨夏から老衰が激しくなったのだが、気力で頑張っている。

昨夏に2度、倒れた。

私が森に帰ると、犬舎の囲いの中でピクリともせずに倒れていた。

私は静かに深呼吸して、気持ちを落ち着けた。

ハン、とうとう死んでしまったのか!!と思った。

私は10mほど手前で立ち尽くしていた。

動かない。 ピクリとも動かずに横たわっている。

覚悟を決めて犬舎に近づくと、ほんの僅かに前足が動いた。

その時の安堵は例えようが無い!!

その時の喜びは例えようが無い!!

私は駆け寄り、すぐに様子を診た。

全身を隈なくマッサージした。

そして抱え上げ、彼の身体をほぐした。

意識がしっかりとしてきた。

彼を抱きながら水を飲ませ、寝小屋に寝かせた。

ハンの犬舎は広い。 自由に歩けるようになっている。

家の中に入れるよりも、彼にはここの方が快適だ。

彼はこの犬舎が気に入っているのだ。

3日間、私はこの犬舎で寝た。 夏だから何の問題も無い。

4日目あたりから、立てるようになった。

だが自力では身体を支えていられないから、排便が困る。

私は彼を高く抱え上げ、お腹と尻をマッサージし、排便を促した。

見事にコロコロと排便した。 日に何度か、この「抱え上げ排便」をやるのだ。

一週間目あたりから、何とか歩けるようになった。

しかし何しろ超高齢だから、もう普通には歩けない。

夏の終りに、もう一度倒れた。 その時も、こうして看護した。

もはや、どこが悪いという問題ではない。

老衰なのだ。 自然の摂理に従うのだ。

ハンは何とか回復し、秋を過ごし、零下20度の冬を乗り切った。

凄い!! 凄いぞ、ハン!! 私は心から敬意を表した。

外から帰り、森に入る時、私は緊迫感に包まれる。

気持ちを整え、意を決して森に入る。

「元気で居てくれ!!」と祈りながら森の小道を進むのだ。

車が犬舎に近づくと、ハンはよろめきながらも、出迎えてくれる。

わざわざ寝小屋から出て来てくれるのだ。

今日も、生き延びた。 今日も、乗り越えた!!

まるでハンの姿は、私の姿、我が家の姿そのものだった。

1%の可能性に賭けて生きている我々の姿そのものだった。

犬舎に入り、ハンを抱える。

老衰で筋肉は殆ど落ちてしまった。

冬に入り、ますます痩せてしまった。

食欲は非常に旺盛だが、大量には与えられない。

胃腸も老化しているから、一度に沢山は与えられないのだ。

だから内容を吟味して、効率の良い食事に変えてある。

それに、もし太らせてしまったら、ますます身体を支えられなくなるのだ。

痩せていても、今は仕方の無いことなのだ。

老衰のとき、私は獣医などには頼らない。

若さが蘇る手段など、どこにも無いのだ。

あるとすれば、それはまがい物だ。

仮の姿を繕う「化粧」のようなものだ。

そんなものに、意味は無い。

そんなものに、意義は見出せない。

(※女性の化粧のことではありません。それとは意味が違います。)

ハンは、それでもまだ30kg近くはある。

彼は骨量があるから重いのだ。

彼の若い頃、筋肉の塊りだった。

異常なほどに非凡な運動能力の持ち主だった。

「目の錯覚か!!」と思うほどの動きを見せてくれた。

遠い日の想い出だ。 すべては移りゆく。

この私自身も年を重ねたのだ。 この私も往年の力を失っているのだ。

だが、そんなことは意識しない。

今は、今を生きるだけだ。

我々は今の力の全てを賭けて、今を乗り越えて生きていく。

ハンを高く抱え上げ、お腹と尻をマッサージする。

ハンは大喜びで尻尾を振っている。

この私の気持ちが、彼にはうれしいのだ。

この私の気持ちに、応えてくれているのだ。

ハンは、ベタベタと私に甘えたりはしない。

若い頃からそうだった。

だが、私への愛は尋常ではない。

いつだって、命懸けで私を守る覚悟を持っている。

私とハンは、沈黙の中でも通じ合っているのだ。


ハンは「攀」と書く。 「登攀」のハンだ。

全身全霊で「攀じ登る」のだ。

15年前に彼を保護した時に、直感の印象で名付けたのだ。

彼は、その名の通りの犬だ。 その名の通りに生きてきた。

あり余るエネルギーの往年のハンには、随分と苦労させられた。

だがこうして、彼は私に教えてくれている。

本物のスピリットを見せてくれている。

不屈の闘志を体現してくれているのだ!!


※「01」もお読みください。

※上の絵は「ハンとオーラン」です。左がハンです。

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