<2008年2月28日>

ロウは、徐々に徐々に、心を開いていった。

彼はルウとは最初の瞬間から分かち合っていたが、

人間への警戒は、尋常なレベルではなかったのだ。

その警戒心は、おそらく一生消え去ることはないだろう。

消えなくてもいい。

たとえ消えなくとも、我が家族であることに変わりは無いのだ。

たとえ懐かなくとも、彼は我が子だ。 私が守り切るのだ。


一年経った頃から、ロウは布団の脇で寝るようになった。

ルウは布団の中で寝る。 私にピッタリと寄り添って眠るのだ。

ロウとルウは大の仲良しだ。 激しく遊ぶ。

私が横になっている間、彼らはずっと駆け回る。

ロウの顔も満面の笑顔だ。「楽しい!楽しい!楽しい!」と叫んでいる。


2年目から、大きく変わった。

ロウは私に飛び込んできた。

もう、私が平気になったのだ!!

ロウと私は「レスリング」を楽しむ。

ロウが遠くから電光のように、ロケットのようにアタックを仕掛ける。

凄い速さだから、受けるのも大変だ。

いや、真剣に対応しないと到底受け切れないほどの速さなのだ。

そしてロウと私は取っ組み合う。 ロウは凄い力だから大変だ。

私がワザとロウの顔を咬むと、ロウはワザと小さな悲鳴をあげる。

本当は痛くなんか無いのだ。 だけど、ワザと悲鳴をあげるのだ。

信頼できる相手でなければ「声」は上げない。

私を家族と認めているから、だから声を上げるのだ。

これは遊びなのだ。 こうやって、いろんな演技をしながら、楽しく遊ぶのだ!!

やさしく咬んだり、ほんの少し強く咬んだり、顔を押し付けたり、抱き締めたり、

いろんないろんな表現が、いろんないろんな了解が、いっぱいいっぱい隠されているのだ!!

夜はみんなで一緒に寝る。 ピッタリと寄り添って、一緒に眠るのだ。

右にはルウ、左にはロウ、可愛い可愛い我が子たちだ。


家の中は外気温と一緒だから、冬は私にとって試練だ。

家の中でも、何もかもが凍る。

ロウとルウは全く平気で適温なのだが、私は凍える。

仕事を終えて森に帰り、犬たちの世話と運動を終えて寝ようと思っても、寒さで眠れない。

ロウとルウが両脇にいても、零下20度の夜などは、人間の眠れる状況ではない。

私は強い酒をボトルごとストレートで飲んで一気に身体を温め、

そして布団の中でエビのように身体を丸めて眠った。 そうしないと眠れないほど寒いのだ。

窓ガラスを取り払って鉄格子に変えたストーブの無い生活を、8年間続けた。

昼間は肉体労働だ。 犬たちの世話は重労働だ。

そしていつも極貧だから、ドッグフードが最優先だから、私の食糧は絶えず欠乏していた。

犬たちには腹一杯食べさせていたが、私は3日4日の絶食は日常茶飯事だった。

だが、私の身体は壊れなかった。 全く平気だった。

家族たちから学んだ「野性道」は本物だったのだ!!

野性道の力を、私はこの身をもって体験したのだ!!


外の家族たちは、家の中の様子を知っている。

だが、決して焼もちを焼いたりはしない。

彼らは、私の真意を知っているのだ。

私が絶対平等の心でいることを覚っているのだ。

だからみんな平静で外にいる。

我々の絆は、些細なことで壊れたりはしないのだ。

そんな曖昧で不確かな結びつきではないのだ。


ロウは成獣に近づいてきた。

まだジリジリと大きくなっている。

もうルウの3倍以上の体格だが、それでもルウがお兄さんだ。

彼らの兄弟愛が、胸を打つ。

ふたりとも、過酷な生い立ちを背負っている。

だがこの家で、真実の家族に巡り逢えた。

夜、みんなで眠るとき、強く強く、抱き締める。

ロウが、私の胸にその大きな顔を載せて眠る。

ルウが、私の腹の横で丸まって眠る。

「ずっとずっと一緒だ。何があろうとも!!」私は毎晩、それを誓った。


ロウは、12歳で他界した。

大型種としては長寿の領域だ。

ルウは、14歳で他界した。

我々家族は、ある大変な試練を受けたので、

おそらく皆が2歳以上は寿命を縮めたと思う。

この私も、おそらく何年分も消耗したはずだ。

だが、彼らは天寿だった。 それが分かる。

彼らの死は、それぞれに立派だった。

3日程前から禅境に入り、生死の真実を覚り続けていた。

もはや、私の出る幕ではない。

私にできることは、見守ることだけだ。

彼らは、静かに迎えを待っているのだ。

すでに、仏が寄り添っている。 仏が、見守っているのだ。

私にはそれが分かる。

最愛の我が子の生死の瀬戸際なのだ。

心は真剣の極致なのだ。 極致の真剣でいるから、それが分かるのだ!!

彼らは、死んだ。

私はこの身の全てで、彼らを看取った。

亡骸を抱いて、目を閉じた。

さまざまな想い出が、走馬灯のように胸を去来する。

ロウ、頑張ったね!! ルウ、頑張ったね!!

過酷な生い立ちを乗り越え、そして我が子となった。

私に、言葉にできないほどの偉大なことを教えてくれた。

いつも、私を信じてくれた。 どんな時も、私を信じてくれた。

私が仕事に出かける時、ホウルで歌を歌ってくれた。

「お父さん!!お父さん!!」と呼んでくれた。

私はいつも車を止め、その歌が終わるまで聴いた。

「魂の歌」なのだ。 我が子の魂の歌を、聴かずにはいられない。

その我が子が、死んだ。

覚悟はしていた。 死の意味も知っている。

だが、悲しみが、胸を貫く。

大声で泣いた。 大声で名を呼んだ。

亡骸を、抱き締めた。

何度も何度も愛撫した。

毛先が音を立てて応えてくれた。

大きな光が、立っている。

光のシルエットが、静かに、立っている。

やがてそのシルエットが、立ち昇るように消えていった。

我が子の魂が、旅立ったのだ。

仏に導かれ、旅立ったのだ。

空を見上げた。 月がいる。

じっと、月を見た。

月のそばから、我が子の魂が私を見つめているように感じた・・・


我が家族たちはみな、このように旅立つ。

その死に際に、私はいつも感無量になる。

私は心の底から、その姿を尊敬する。

彼らは堂々と、己の全てで、死と対峙する。

誰に頼ったりもしない。 誰にすがったりもしない。

彼らは全身全霊で生き、そして全身全霊で死んだのだ。

この死に際に、彼らの真髄が現われる。

私はその偉大な姿を、この目に焼付け、この心に刻んだ。

彼らはその命で、私に教えてくれたのだ。

**** WOLFTEMPLE ****