<2008年2月20日>

アフリカのウシ科の「ヌー」の子が、サバンナで生まれた。

生まれた直後に立ち上がり、即座に群れについて行く。 凄い!!

グズグズしていると襲われてしまうからだが、それにしても、凄い!!

「生存本能」のひと言で片付ける訳にはいかない。

その子のその時の「心境」を想えば、そんなひと言で片付ける訳にはいかない。

己のすべてを賭けるのだ。

生まれた直後の赤ちゃんが、自分の力のすべてを賭けるのだ。

簡単には立てないのだ。泣きたいくらいに大変なのだ。

しかし彼らは泣かない。

泣きたい気持ちを必死に抑えて、立ち上がることに全てを注ぐ。

可愛い可愛い赤ちゃんが、つぶらな瞳の赤ちゃんが、

誰の力も借りずに、誰にも頼らずに、己の力で立ち上がるのだ!!


だが、すぐには立ち上がれない子もいる。

全力を尽くしても、立てない子がいる。

ほんのちょっと、体力が弱い子がいるのだ。

立てなければ、死ぬ。

その子はそれを知っている。


運命の時が迫っている。

母親は、深い深い眼差しで、その子を見守っている。

見守ることしかできないことを、

それが大自然の調和の掟であることを、母親は知っていた。

知ってはいる。知ってはいても、平気でいられるはずがない。

我が子なのだ!!我が子の生死の瀬戸際に、平気でいられるはずなどない!!

心配で心配で、胸が張り裂けそうだった。

だが、そんな不安を見せることはできない。

不安の挙動は即座に周囲に伝播する。

命懸けのサバンナでは、それは群れの安全に大きな不利をもたらしてしまうのだ。

我が子のためにも、群れのためにも、心を踏ん張らなければならないのだ。

それが、その時の母親の使命だったのだ。 だから、母親は耐えた。


運命の時が、刻々と迫っている。

その子はもう、疲れ果てていた。

力の限りに頑張ったのだ。 精一杯に頑張ったのだ。

だが、立てない。

その幼い心臓が激しい鼓動を打ち鳴らしている。

辺りのすべてが、息を呑んでいる。

辺りのすべてが、息を潜めて見つめている。


その子は、息を整えた。

最後のチャンスに挑むのだ。

これが最後だ。 これを逃せば、運命は絶たれる。

その子は、その一瞬に、あらん限りの力を込めた。

渾身の力を、その身体に残る最後の力の一滴を、その一瞬に込めた。

全身全霊の偉大な力が現われた。

究極の全身全霊が、偉大な力を呼んだ。

その子は、立った。 その子は、立ったのだ!!


辺りのすべてが、その姿を見守った。

辺りのすべてが、その苦闘を見届けた。

そこにわずかな機会のあることを、猛獣たちは知っていた。

その子がわずかに手間取っていることを、猛獣たちは知っていた。

だが彼らは、一刻の猶予を与えた。

その子の姿に、敬意を払ったのだ。

その子の全身全霊に、最大の敬意を払ったのだ。

大自然界では、このようなことが起こる。

「生存本能」では説明できないドラマが、実際に起こるのだ。

大自然の彼らは、ただ「生存」しているだけではない。

彼らは、感動を知っている。

彼らは、感動の中で生きているのだ!!


ヌーの子が、母親の後を追う。

その姿が、光に包まれている。

大自然界が、見つめている。

静かに、厳かに、その子へのエールを送っている。

この先もずっと、その子の生涯は試練に満ちている。

だが、ヌーの子は生きる。 最後の最後まで!!

その最期の時まで、命の炎を燃やし尽くすのだ!!


それぞれの命のドラマが壮大なハーモニーとなって、

一瞬一瞬に、大自然の偉大な調和を生み出していく。

大自然はつまり、命そのものだ。

**** WOLFTEMPLE ****