<2008年2月17日>

これまで、野性界を代表して、人間界に抗議・提唱してきた。

これまで、いちるの望みを持っていた。人の心に対して。

暖かなやさしい人たちを知った。

愛に満ちた人がたくさんいることも知った。

だが、それ以上に、見えない魔物の底知れない怖ろしさを知った。


ある国で、「アート」と称して、悪魔の儀式が挙げられた。

恐怖に逃げまどう一頭の不幸な野良犬をとことん追い詰め、暴行捕獲した。

決して逃げられないように二方向から針金で首をくくり、

さらに、横になれないようにもう一方から綱で首を吊るした。

おとなしい犬だった。おだやかで、やせて体力の衰えた犬だったから、捕獲できたのだ。

過酷な野良犬生活の先に待っていたものは、さらに言語を絶した運命だった。

「犬の飢えて死にゆく姿の展示」の展示品として、衆目の中に晒されたのだ。

犬が、飢えの果てに死んでいく様子を、人々が「鑑賞」するのだ。

犬は、簡単には飢えて死なない。

飢えて死ぬには、かなりの日数がかかる。

だが、死なないからといって、その苦しみが少ない訳ではない。

その苦しみは、人間と全く同様なのだ。

犬は耐える気力が凄いから、彼らの苦しみを人は実感しにくいかも知れないが・・・。


果てしない孤独と、絶望と、苦しみだけの、長い長い死出の旅路だった。

犬は見ていた。この世界を。

このとことん空虚な灰色の世界を、ただ黙って見続けていた。

人々が指を差しながら歓談している。

「いつ死ぬんだ?? まだ生きてるぞ!! 死ぬのを見にきたのに!!」

これがこの世だ。犬はこの世を知った。魔物が支配するこの世を知った。


意識が遠ざかる。

犬は、慈悲の迎えが来たことを知った。

やっと、帰れる。やっと、魔物の世界から解放されるのだ。

途方もなく長い地獄境の果てに、途方もない孤独の果てに、途方もない苦しみの果てに・・・。

犬は、人間の怖ろしさを知った。

人間の中に棲む怪物を、その目ではっきりと見た。

決して他の生き物の中には棲まない怪物を、その目ではっきりと見た。

犬は、恨まなかった。犬は、憎まなかった。

ただこの怖ろしい世界と、この怖ろしい怪物と、関わりたくなかった。

どれほど純心で尽くしても、どれほど愛を捧げても、

この怪物にはそれが届かないことを知ったのだ。

人間は同族しか愛せない。同族しか認めない。どこまでも偏狭で卑怯な生き物だ!!


野性界のすべてのみんなが、この無念に涙している。

俺たちは忘れない。お前の受けた地獄の苦しみを。

俺たちは祈る。お前のことを。この心のすべてで。

**** WOLFTEMPLE ****