<2008年2月11日>

15年前、狼犬の子を引き取った。

闘犬師の元から引き取った。

約束の場所に着くと、屈強な男たちが出迎えてくれた。

一人が腕に包帯を巻き、肩から吊っている。

「狼犬の子に咬まれたのだろう・・」と推測できた。

子狼犬は未だ乳歯のはずだが、その乳歯の牙から激しい一撃を受けたのだろう。

その子が入ったケージは、太い針金で厳重に巻かれていた。

よほど獰猛な状態なのかな??と思ったが、そんなことで気持ちは揺らがない。

男たちに挨拶を済ませ、私は静かにそのケージに歩み寄った。

車のドアは開けたままにしてある。

私はケージの針金を解いた。そして集中した。

扉を開けた。その子はそのままの姿勢だ。

私は間髪を入れずに瞬間に、しかし静かにゆっくりと流れるように、両手で抱いた。

両手に大きな力を込めて決然と、しかしあくまでもやさしく流れるように、胸に引き寄せた。

そのまま車に向かい、その子を座席に置き、そのまま発進した。

この瞬間に、その子は永遠の家族になった。

車中で、「ロウ」と名付けた。

元の飼主の話だと狼血が90%以上の混血だと言う。

狼血が強いからといって、そのまま狼そのものの様子を現わす訳ではないが、

その闘犬師の言う%に誇張は無いようだった。それで「狼(ロウ)」と名付けた。

※因みに、狼と犬が混血できるからといって、両者が同族の訳ではない。

人々が想像する以上に両者は掛け離れている。

人々から見れば姿が似ているかも知れないが、両者は歴然と異種族なのだ。

学説では狼が犬の祖先だと主張するが、私はその説に強い疑問を抱いてきた。

あまりにも両者の気配が違いすぎるからだ。狼の気配は「異世界」なのだ。

(※ここで言う「狼」は、大型の灰色狼のことです。)

犬の祖先は「原始野生犬」だと思う。

狼と親類関係にはあるが、しかし狼そのものではない野生犬だ。

現代でも世界各地に野生犬は存在するが、彼らの気配は歴然と「犬」だ。

「ディンゴ」は野生に還って数千年経つにも関わらず、それでも未だに「犬」の気配のままだ。

もし狼が祖先なら、もう少し狼の気配に近くなってもよさそうなのに、犬のままなのだ。

狼の気配が独特なのと同様に、犬の気配、犬の雰囲気も独特なのだ。

狼が独特の種族であるのと同様に、犬も独特の種族なのだ。

コヨーテが独特であるように、ジャッカルが独特であるように。

学者がなぜ狼を祖先にしたがるのかが分からない。

犬の祖先は原始野生犬という立派な独立種だったと私は思う。

両者は全く別方向に進化を続けた。

だから私は両者の混血に全く意義を見出せない。

そこにはひたすらマイナス面しか見当たらないのだ。

ただし、唯一の特例として「北極エスキモー犬」がいる。

それは北極ソリ犬が生き延びるための「やむにやまれぬ」手段だった。

そして彼らは幾千年の果てに「Polar Eskimodog」という独特種に昇華した。

(※シベリアンやマラミュートとは異なる種族です。)

だが彼らの特質は「犬」とは異なるから、決して犬のようには飼えない。

彼らには狼の気配も濃厚に感じるが、しかしあくまでも「独特気配」だ。


帰宅し、家の中にロウを入れた。そのまま放し、自由にさせた。

彼の顔は険しかった。とても子供の顔とは思えないほどだ。

生後3ヶ月との説明だったが、よほど何かがあったのだろう。

よほどの事情が隠されているように見えた。

放した瞬間、彼は嵐のように家中を爆走した。

グルグルグルグルと、その爆走が止まらない。

私は中央に座った。そのまま静かに動かずにいた。

ロウは私を中心に延々と旋回を続ける。

そして窓にジャンプして「三角飛び」の跳躍も繰り返す。

やがて、ほんの少し落ち着いた。

しかし私が手を「1cm」動かした瞬間に、即、またあの凄まじい爆走が始まった。

とにかく、その行動が延々と終わらない。私はそのままの姿勢で座ったままだ。

ロウは、極度な警戒心の塊りだった。尋常なレベルではなかった。

「シャイ」とは違う。「興奮性」とも違う。

ロウの傾向性は、そういった単純なジャンルに特定できない。

複雑にさまざまなファクターが絡まり合い、決してひと言では表現できない性質だった。

※中断します。まだ途中です。のちほど書きます。