<2007年11月23日>

狼のホウル(遠吠え)は、「魂の歌」です。

心の真情を、歌に託すのです。

全てを込めて、一心に歌うのです。

動物学ではホウルを「合図の手段」だとしか言いません。

動物学は基本的に「動物の心」を認めていないのです。

しかし狼のホウルは、魂の歌です。

いろんな歌があります。

「哀切のバラード、レクイエムの歌、家族を呼ぶ歌、力の歌」など、

その時その時の、心の底から湧き上がる想いを歌うのです。

狼のホウルは圧倒的です。

辺りの空気が震え、窓のガラスが振動するほどです。

大ゲサではありません。本当の話です。

もはや「声」という印象ではないほどです。

間近で聞けば誰もが驚嘆するはずです。

雄狼の声は重厚です。重々しい声量が森に響き渡ります。

他の家族たちも歌い始めます。

それぞれの声で、それぞれのメロディーで、コーラスを奏でます。

次第に音階が高まり、いよいよクライマックスを迎えます。

私はいつも、目を閉じて彼らの歌を聴きました。

心に響く歌です。胸を打つ歌です。

何故ならそれが「魂の歌」だからです。

狼のその圧倒的な声量は、狼の「底力」の象徴です。

その声が、狼の力の証しなのです。

とりわけ「力の歌」の迫力は凄いです。

成狼になり、その身体に本物の力が溢れた時、

その力が身体を昇りつめて声になるのです。

彼はその湧き上がる充実感を、歌に託すのです。

「雄叫び」という言葉がありますが、まさに勇壮な「雄の歌」なのです。

「哀切の歌」があります。

私が狼の背中で手でリズムを取りながらバラードを歌うと、

狼はだんだんたまらなくなってきて、

四つの足を交互に踏み替えながら身体をよじり、

そうして哀しく切ないホウルを歌い始めるのでした。

私が狼舎で寝れない日には、夜、狼がジッと私の部屋を見つめます。

そして、そっとそっと、抑えた抑えた声のホウルで私を呼ぶのです。

「お父さん!」と呼んでいるのです。

「太郎、お父さんはここにいるよ!」と私は応えます。

彼はそのままの姿勢でまだ部屋を見つめています。

暗闇の中でもそれが分かります。彼の姿が目に浮かぶのです。

私はもう一度「太郎!」と声を掛けます。

しばらくして、彼は静かに寝小屋に戻るのでした。

私が狼舎で一緒に寝る時には、彼はその大きな顔を私の胸の上に乗せて眠りました。

重くて大変でしたが、私は太郎が可愛くて可愛くてしかたなかったのです。

立ち上がれば190cmを超えるほどの巨狼でしたが、最愛の我が子だったのです。

彼のホウルを録音しておけばよかったかもしれません。

しかし彼の声は、この私の心に、消えることなく刻まれています。

私は今なお、あの魂の歌を聴いているのです。

**** WOLFTEMPLE ****