<2007年11月2日>

◆ブログ開設挨拶◆

私は標高1300mの森に住んでいます。

辺りに家などありません。

真冬は零下20度を超え、一面の銀世界です。

私はこの森でいろんなことを学びました。

それをこのブログに綴っていきます。

本日よりブログを始めます。

まずは今年の目立ったトピックスをご紹介します。


5月初めの夜、森に「熊」が訪れました。野生の熊です。

犬たちの世話を終える頃、彼らの様子が変わりました。

気迫のこもった姿勢で何かに集中しています。私も耳を澄ませました。

すると、辺りに「ラップ音」が聞こえます。

私は世間で言うところの超常現象を特別視していないので、

それに対して身構えたりはしません。

「信じる信じない」ではなく、実際に体感するだけです。

森のラップ音は、老木の折れる音でも凍裂の音でもありません。

鉄砲の音でもありません。それらのような音とは全く違います。

ここは音の発生源など無いはずの場所です。

住む人も訪れる人も誰もいないのです。

その状況の中で、時にはいろんな方角から音が聞こえるのです。

季節や時間に関係なく「パーン」という音が響きます。

錯覚ではありません。

ラップ音の響く時には犬たちも感覚を研ぎ澄ませて傾注するのです。

そのラップ音のあとに、枯れ枝を踏む足音が聞こえてきました。

その音がだんだん近くなってきます。

かなりの体重の持ち主であることが分かります。

「バキバキッ」と、木の折れる音もします。

普通、野生獣は音を立てずに歩けますが、

今回この熊は、気配を殺すつもりが全く無かったようです。

つまり堂々と訪れて来たのです。

暗闇の中で、私は目を凝らして集中しました。

何か大きなシルエットが近づいてきます。

犬たちは全く動じず、むしろ興味深く注目しています。

しかし、今いる犬たちの殆どが柴犬くらいのサイズです。

フェンス犬舎に入っている犬もいますが、鎖で係留している犬もいます。

私は係留している犬が心配になったので、その傍に立っていました。

犬たちがもし自由の身ならば、彼らに身の危険は殆どあり得ません。

野生の熊の素早さとスピードが極めて凄いことは知っていますが、

私は我が家の犬たちの動きの速さも知っているし、

彼らは本能で熊の実力を充分にキャッチするはずですから、

無謀な行動は取らないはずです。

しかし犬を放せば熊に余計な迷惑が掛かるので、繋いだままにしましたが、

もしその状態の犬に熊が近寄れば、さまざまなアクシデントの危険性があります。

私は犬の傍に立ち、熊の動向を見守りました。

黒いシルエットが間近まで迫りました。

やはり野生は凄い迫力です。強烈な無言の威圧感があります。

なんの躊躇も無く近づいてくるので、非常にハラハラしました。

普通、野生獣は人間と一定の距離(間合い)を保つのですが、

この熊はおかまいなしに来るのです。私はそれが不思議でした。

熊の想念は僅かに伝わってきましたが「危険」という印象は受けませんでした。

しかしとにかく、その迫力に圧倒されてしまいました。

人間の力など比較の対象にもならないことを、一瞬に実感しました。

根本の次元が違うのです。例えば同じ70kgでも内容の次元が違うのです。

生まれたその時から生死の境界を耐え続け、毎日毎日を命懸けで生き抜く野性の底力は、

人々の想像をはるかに超えた次元なのです。

以前、山でエスキモー犬の散歩をしている時に熊と出会ったことがありますが、

その時は距離が離れていたし、すぐに熊が引き返したので実感は薄かったのですが、

ここまで間合いが近いと、ありありと身体で感じるのでした。

(※もし「熊を倒した」などという話があったとしても、

紙面には載らない特殊な事情があるはずです。

10日も20日も絶食し、本来の力など一滴も残っていない熊もいるはずです。

あるいは「子熊」を「熊だ!熊だ!」と話す人も多いのです。

本来の状態の成獣が、もし本気で人間を攻撃したら、一撃で殺せるでしょう。

「ケガ」どころで済むはずがありません。

もしケガで済んだとしたら、熊が手加減したということです。

「殺すつもりなど無かった」ということであり、威嚇の範疇なのです。

力自慢の人や格闘家は野性を甘く見ることが多いようですが、それは甚だ失礼な話です。

野性たちの言語を絶した苦闘の生涯を知ったら、彼らの途方も無い気力を知ったら、

「野性と力を較べる」などという発想は湧いてこないはずです。)

私は熊の迫力に圧倒されながらも、肚に力を込めました。

犬たちの父として、どうしても踏ん張らねばなりません。

ほんの数mの距離になったので、私は手を前方に掲げ、

「だめだよ!!」と腹の底からの声を響かせ、熊に呼び掛けました。

熊はそこに立ち止まりました。私はもう一度、声を掛けました。


■「02」に続きます。

**** WOLFTEMPLE ****