「ごめんね。」

「え?なんでコーンが謝るの?むしろ謝るのは私の方だと思うんだけど。」

 

蓮が謝る理由が思い当たらず、キョーコは首をかしげる。

 

「うん・・・変装なんて言ったけど、本当はあの頃の、出会った頃のコーンとキョーコちゃんであの河原に行きたかったんだ。」

「ああ、だからこのウィッグなのね。」

「でも、ここはキョーコちゃんの地元なんだから、京子であることがバレないようにって考えるよりも、最上キョーコであることを隠す方が重要だったんだよね。そうすればキョーコちゃんに辛い思いをさせずに済んだのに・・・。」

 

自分の思慮が足りなかったと落ち込む蓮に、キョーコは慌てる。

むしろ不快な思いをしたのは蓮の方ではないのかと。

 

「え、えと・・・私は今更あんなの気にしてないわよ?むしろコーンに嫌な思いをさせてしまったんじゃないかって・・・。」

「そうだね、腹が立ったのは本当だよ。キョーコちゃんにあんなこと言うなんてって。」

「コーン・・・。」

 

蓮から出ていた怒りのオーラが自分のためだったことにキョーコは嬉しくなる。

 

「ふふっ。ありがとう。コーンのおかげですっきりしたわ。あの驚いた顔、可笑しかった~。」

「それは良かった。ところでキョーコちゃん、この後どこか行きたいところある?」

「行きたいところ?特には無いけど・・・。そういえば、あの河原に行くためだけに京都に来たの?」

「ん?ああ、目的はそれだけかな。」

 

もしかしてとは思っていたが、まさか本当にあの河原だけが目的だったことにキョーコは呆れた。

確かに蓮と思い出の場所に行けたのは嬉しいが、ちょっとそこらに散歩でも出掛けるように行く場所でもないのだ。

 

「じゃぁこれからどうするの?もう帰る・・・にしてもどこかで少し休んだ方が・・・。」

 

一晩中車を運転するという無理を蓮にさせてしまったということが、キョーコの胸を痛めていた。

ここまで来たということは、当然帰らなければならないということで、運転などできないキョーコにはどうすることもできず、蓮に頼るしかないのだ。

しかし、そんなキョーコの心配をよそに、蓮が大丈夫と笑う。

 

「旅館をね、予約してあるんだ。」

「え、でも今日の夜には帰るって・・・。」

「うん。昼間に利用できる旅館でね、昼食と温泉が付いてるんだよ。」

「へぇ、そんなのがあるのね。」

「ちょっと早いけど、旅館には早くなるかもしれないって事情は話してあるから、特に行きたいところが無いなら今から行こうか?体、冷えてるから温泉で温まるといいよ。」

 

そう言ってキョーコを車に乗せると、蓮はゆっくりと車を走らせた。

 

 

 

「それでは、お昼になりましたらお食事を用意させていただきますので、それまでごゆっくりどうぞ。」

「「ありがとうございます。」」

 

旅館に着いて部屋に通された二人は、案内係の中居に礼を言うと、向かい合って座ってお茶を飲んだ。

部屋に二人でいることなど慣れているはずなのだが、旅館という特殊な場所のためか、何故か落ち着かない。

 

「キョーコちゃん、温泉入っておいで。俺は少し寝るから。」

「あっ、そ、そうね。せっかく温泉があるんだから入らないと勿体無いわよね。じゃぁ、行ってくるけど・・・。」

「俺のことは気にしないでゆっくりしておいで。」

「う~、はい。では行ってきます。」

 

 

部屋を出たキョーコは、ほーっと一息ついた。

 

「は~~~。なんだろう、コーンと旅館だなんて緊張しちゃう。」

 

出かけようとした約束が、まさか京都に来ることになるなど思いもしなかったし、その後に温泉旅館だなんて・・・。

 

「ち、違う。これはそんなんじゃなくて、うん、温泉行こう!」

 

思考がおかしな方向へ行きそうになったキョーコは、頭の中のモヤモヤを振り切るように温泉へと向かった。