「え?ここ・・・??」

 

おおよそ蓮のイメージとはかけ離れた、黄色くMのように形どられたそのマーク。

まさかの展開に、キョーコは唖然とする。

 

「本当にココ?」

「そうだよ。そのキョーコちゃんの反応を見る限り、やっぱり俺のイメージじゃないんだな。」

 

ふうーっと、蓮はため息を一つ吐く。

 

「向こうにいた時はよく行ってたんだよ?」

「そういえば、コーンはアメリカ人なんだよね。向こうだと日本よりもよく食べるわよね。」

 

どうしても蓮のイメージが強いため、ゴージャスターがハンバーガーなんて・・・と思ったが、なるほど言われてみれば納得である。

 

「とりあえず、寒いし中に入ろうか?」

「あっ、うん。」

 

蓮に促され、キョーコは蓮の後について店内に入る。

注文をして商品を受け取り、二人は目立たないようにと店内の一番奥の席についた。

 

「こんな朝から、結構人がいるんだね。」

「そうね。しかももの凄く視線を感じるわ。」

 

店内に入ってから、二人は注目の的になっていた。

キョーコは、女性客が蓮に見惚れているのだと思っていたが、実際には、突然現れた美男美女カップルとして注目を浴びていた。

そうとは知らないキョーコは、蓮に気付く人がいないかとハラハラしていた。

そのため、ここで気をつけなければならないのが自分であるということをすっかり失念していたのだ。

 

「キョーコちゃん?」

 

何やら考え込んでいるキョーコに蓮が声をかけた時、それは起こった。

 

「キョーコ?・・・ああ!!最上キョーコ!」

「え?」

 

突然名前を呼ばれ、びっくりしたキョーコは声のした方へと振り向く。

そこにいたのは数人の男女のグループで、その中の一人の女性が、キョーを見て驚いた顔をしていた。

見覚えがあるようなないような、キョーコは必死で思い出そうとしたが思い出せず、おそらく知り合いでは無いと結論付けた。

となると彼女は・・・キョーコは嫌な予感がした。

 

「キョーコちゃん、知り合い?」

「いえ・・・知り合いというか・・・」

 

歯切れの悪い言い方をするキョーコに、蓮は何かを察した。

 

「どこかで見たことがある気がしたのよ。あなた、最上キョーコでしょ。」

「そうですけど・・・何か・・・。」

 

なんとなく覚えのある嫌な感じに、キョーコはどう対応すべきかと考える。

 

「あなた、なんでこんなところにいるの?」

「なぜと言われても・・・。」

「ああ、そうよね。尚は今やトップミュージシャンなんだから、あんたなんて相手にしないわよね。で、こっちに戻って来てるんだ?」

 

やっぱり・・・。

キョーコは、なぜこの女性が自分を知っているのかということを理解し、心の中でため息を吐いた。

 

「で、この人が新しい男?あなたってメンクイなのね。ねぇ、彼氏さん。この子、中学の卒業式の後に、男とかけおちしたような子なのよ。」

 

蓮が当然、尚とのことなど知らないだろうと得意げに話す女性に、キョーコは何も言えず黙り込んでしまう。

今更そんな大魔王を呼び出すような話題に触れないで欲しいと。

真実ではないにしても、尚と家出同然で東京に出て来たのは真実で、あの当時尚を好きだった自分が、かけおちみたい・・・と思っていたのも事実だ。

もちろんこれらの事情を蓮は全て知っているので、今更目の前の女性が何かを言ったところで知られて困ることなど何も無いのだが。

それでも、蓮の前では触れられたく無い話題であることには間違いない。

 

「へぇ、そうなの。」

 

予想通りキュラキュラと突き刺さるような笑顔を浮かべて口を開いた蓮だったが、その矛先はキョーコには向いていないような気がした。

一気に周りの温度が下がったような気がしてゾクリと寒さを感じたキョーコだったが、目の前の女性はそんなことにもきづかず、蓮の笑顔に見惚れていた。

 

「尚って・・・不破尚?ミュージシャンの。」

「え?ええ、そうよ。尚は京都の出身でね・・・。」

 

自分は尚のことをよく知っているばかりに、聞いてもいないのに尚のことを蓮に説明する。

キョーコはそれを聞いている蓮の顔が怖くて視線を反らす。

 

「ああ、尚ってキョーコちゃんの幼馴染だっていう彼のことか。キョーコちゃんの迷惑も考えずに追いまわしてる彼ね。」

「え・・・追い回すって・・・。」

「ホント迷惑だよね。そうか、彼ってあの不破尚だったんだ。特に興味もなかったから気づかなかったけど、うん、確かに言われてみればそうだね。」

 

思ってもみなかった蓮の反応に、ぽかーんとする女性。

そんな彼女の反応にクスッと笑うと、尚も続ける蓮。

 

「ああ、一つ訂正させてもらうけど、キョーコちゃんはかけおちなんてしてないよ。」

「えっ、でも・・・。」

「幼馴染の彼と一緒に東京へ行ったのは確かだけど、キョーコちゃんは俺に会いに来てくれたんだから。ね、キョーコちゃん?」

「え?うあ、は、ハイ、ソウデスネ。」

 

つらつらと出てくる蓮の言葉に、さすが俳優ですね、などとよく分からないことを考えていると急に蓮に話を振られ、狼狽えてしまう。

そんなキョーコを怪訝そうに見る女性に、キョーコも女優魂を貼り付け微笑む。

 

「何か勘違いしているみたいだけど、ショーちゃんはただの幼馴染よ。おかしな勘違いはやめて欲しいわ。昔からアイツのせいであなたみたいなのに絡まれて、ようやく自由になったと思ったら、ちょっと帰って来ただけでこれなんだから。迷惑もいいところだわ。」

 

呆然としている女性を目の前に、言いたいことを言い切ったキョーコは、はぁはぁと乱れた息を整える。

 

「ということで、もう放っておいてね。行きましょう、コーン。」

「そうだね。これ以上ここにいても気分がいいものでもないし。」

「あっ・・・。」

 

席を立った二人に何か言おうとするが、言葉がみつからず、その背中を見送るしかなかった。

突然くるっと振り向いたキョーコは、「あんな奴のファンなんてやっててもいいことないわよ。」と言って、今度こそ蓮と連れ立って出て行った。