不良とかヤンキーとか、ともかく最初も最後も暴力で解決する方々は、本能的に相手の強さを認識する能力を伸ばすようである。
 人は見た目によらないというが、外見だけなら良い人に見えるのに、いったん切れ出すとどうにもとまらずに笑顔で返り血を浴びながら、相手を殴り続けるような人物もいるわけである。
 こうなると外見で大柄で厳つい上にオラオラして歩いてくれた方が対処は楽である。近づかなければ良いわけだ。
 合気道の極意はいろいろな攻撃に対してどう交わすかではなく、どうやって闘わないですむかに行き着くらしい。そもそも闘争の原因になる現場に行かなければ良いわけだし、そんな人物と関わらないようにすればよいわけだ。
 わたしはそんな鉄火場に居るわけではないし、むしろ真逆の病人生活が長いわけである。それでも入院病棟でいかに安静に過ごすかは大切であり、自分なりに検討したものがあるわけだ。
 そこで間違えてはいけないのが入院病棟における職員の方々におて、誰に逆らってはいけないかということだ。
 基本的に病院職員の誰にも逆らって良い子とは一つも無いと思うのだが、その仲でも反感を買ったらシャレにならない人物も居るわけである。
 その筆頭は以前にも書いたが病棟の士長さんになる。以前は婦長さんと言われていた、看護士さんたちを統括する人物だ。
 士長さんには積極的に前面に出て患者さんに接するタイプと、裏方に徹して重要伝達事項の通知以外は顔を見せないタイプが居るようである。どちらにしても士長さんの不興を買うことは、入院生活がろくでもないことになるのを確定している。
 次に逆らわない方が良いのが看護士さんである。
 普通は医師では無いのかと言われそうだが、医師に比べると看護士さんが患者に接している時間は圧倒的に長い。そして投薬や点滴、注射という医師の補助業務も看護士さんが行う事が多い。
 外科病棟であれば患部の処置を、医師が指示したレシピに従って行うのも看護士さんである。からかって冗談を言う程度であれば良いが、看護士さんに嫌われることは通常の生活でかなりの不自由を送ることになる。
 あと、看護士さんはナースステーションで患者さんの情報交換を盛んに行っている。相手が新人の看護士さんだからと言って無理難題をふっかけると、それはすぐさま全ての看護士さんに伝わって、以後はヒグマでも笑顔で殴り殺しそうな看護士さんが担当になるわけだ。
 男性の看護士さんも増えているがその割合は1割程度。未だに女性の世界であるが、そのためかお年寄りの入院患者の仲にはあからさまに女性看護師を馬鹿にするような方がいる。そういう人に限って男性医師の言葉には無条件に頭を下げるわけだ。
 看護士さんにとって一番面倒なのは、飲み薬などの管理を自分で行うと言っておいて、結局管理できない患者だそうだ。ご自宅ではご家族に管理を頼んでいたのだが、見えを張って自分で管理できると言うのである。
 薬によっては飲み方を間違えると危険なものもある。薬と毒は同意語だが、それをよく理解していない患者はいるわけで、状態が良くないと思って勝手に多くの薬を飲んでしまう方もいる。
 酷いときには中毒症状も出るわけで場合によると担当の看護士さんの責任になるし、自分が悪いのに訴訟問題にもなるわけだ。そうなると厳しくなって当然である。
 あと、意外に思うかもしれないが、非常事態に看護士さんを含む職員に頼らず、患者同士で助け合うようなパターンも嫌われる。助け合いも程度の問題があるが、それこそ症状に関係するようなことを、担当の看護士さん抜きに行おうとするとかなり怒られる。
 これも責任問題が関係することだ。患者はあくまで罹患しているが、治療のプロでは無い。手助けをしたいのであれば、迅速に看護士さんを呼び出すのが一番である。
 あと、看護助士さん、エイドと呼ばれる方々は治療行為などはできないが、患者さんの日常生活を補佐するお仕事をしている。
 例えばベッド周りの清掃や食事の準備、検査などで移動を伴う場合の誘導などである。医療機関によっては看護士さんと見分けがつく制服を着用している。
 こちらの方々も、医師でも看護師でもないからと高圧的に出て良い子とは何一つない。悪い印象を与えては日常のサポートに差が出るかもしれないからだ。
 日本人は真面目なので相手の印象が悪くても、自分の仕事はきちんとこなす方が多いと思うが、入院している患者さんの数に比べると補助の方の人数は少ない。
 普段から悪い印象の患者と、良く接してくれる患者では、気が付かない間に差が出ることもあるだろう。
 このように病院職員の方々に、悪い印象を与えて良い子とは無い。ときどきクレーマー気質な患者がいて、何かにつけて苦情を言う方がいる。自分はこの病院の誰それと知り合いだとか言って、インターンの医師にくってかかり、散々文句を言った後で「お前では話にならない」とか言って担当医師を呼び出すのである。それも土日祝祭日に。
 窓口が休みの日は医師も常駐しておらず、大きな病院などではインターンが診ている。それに看護士さんの数が日中でも少ないために一人が苦情で捕まると、その他の業務が滞ることになる。
 この手の患者の迷惑なところは「自分がみんなを代表して苦情申し上げている」という正義の味方感を出しているが、守護が大きいのである。入院しているこちらとしては、静かに過ごせれば良いのだ。
 簡単にまとめると職員に「ダメ」と言われたことは行わない、行ったら素直に謝る。こびへつらう必要は無いが、禁止事項は守るようにすれば平温に入院生活を送れるはずである。

 さて、あとは大部屋の場合、どうしても別の患者と一緒になるわけだが、わたしはあえて同室の患者と交流しようとは思わない。
 先ほど述べた患者同士の助け合いが状況を悪くすることもあるが、同じような病気という条件を除けば他人事なのである。
 わたしも隣のベッドの方が苦しんでいるようなら、代わりにナースコールを押すことはある。しかしそこまでにしている。対処はわたしの役目では無いからだ。
 ただ、ここら辺の解釈はあくまでわたしの個人的なものなので、参考程度に聞いていただければ幸いである。

 次回は、オリンピック開催の意味について考えたい。