最近はケアマネージャさんから引っ越しを懇願されている。主に今、住んでいる住宅事業があまり良く無いからである。
 一応ケアマネージャーさんの名誉のために言うが、嫌がらせで追い出そうとか思って居るのではなく、長年お年寄りの生活などを見てきてそれなりに過酷な状況に思えるのだろう。原因はいくつかあるが、建物が築50年を超える古いものであること、そして脚の病でいろいろと手術を行って居る患者が昇降するには急な階段にあるらしい。
 そもそも全盲の上に人工透析を受け、末梢神経障害で脚の指を欠損している所労の独身男性である。どちらかというとひとり暮らしにもっとも適さないとお考えだと思う。実はわたしもよくひとりで暮らしていると思うのだが、そこまで不便に思ったことが無い。
 つまり患者とケアマネージャーさんでかなりの意識格差があるわけだ。件の階段にしてみても、わたしとしては30年来で利用しているためにそこまで危険に思えないし、足を手術してからなおさら慎重に上り下りしている。
 築50年であるがバブル景気の前に作られているために全体的にしっかりとしており、これまでの地震でもびくともしなかった。あえて言えば内部の設備が古く、分電盤は今時のブレーカーユニットではなく直接配線だし、風呂は追い焚き式、トイレは水洗だがウオ種レット非対応、そもそも電源は30アンペアである。
 最近の大学生などは見向きもしないだろうし、入るとしたら他に入居を断られた方々か。何度も言っているが一昔前の刑事物で犯人が潜伏していそうな場末の部屋である。
 ケアマネージャーさんは60才から入れる共同生活スペースなどのパンフレットを置いていったりといろいろと努力されている。それに報いるために受け取ってはいるものの、わたしとしては引っ越す予定はない。この建物が老朽化に伴って取り壊すとかなれば、移転費用を頂いてどこかに写るかもしれない。
 わたしとしてはここを移動できないいくつかの理由があるのでそれを開設する。

● 仕事関係
 あまり仕事をしていないが、一応これでも在宅勤務の嘱託社員である。いつでも会社側からのリクエストに応えられるように設備を保持していかなければならない。
 主にそれなりの速度と安定した接続の光回線、それにリモート作業を行う上で必要となるパソコン類などだ。これらが前部移動できたとしても、ここから持ち出すために一度解体し、再度構築し直さなければならない。
 これはとても面倒である。主な家電はルミナスのスティールラックに収めているが、幅90センチメートル、奥行き45センチメートル、高さ90センチメートルの4段組の仲にこれでもかと機材が組み込まれ、それらを無数のケーブルが配線している。
 最初に構築してからすでに3年がすぎている。機器の構成も変化しているために組み替えても良いと思うのだが、安定した動作を保証するためになるべく動いて居るものはいじりたくないのである。

● 盲人用カスタマイズ
 一応賃借に住んでいるのだが、ここの大家のご厚意というのか、部屋の中はどう使ってもよいと言われている。
 別に壁紙をひっぺがすとか天井を取り去るとかのことはしていないが、わたしが生活を行う上で不便が無いようにいろいろと改造している。
 主に背丈の高さに物干し竿を何本も通して、それを手すり代わりにしているし、床には厚手のジョイントマットを敷いている。押し入れはふすまを取り外してロールカーテンを設置、そこに日常品やゴミ箱を納めている。
 極めつけは普通の家電を音声化するために、各種IOTデバイスをこれでもかと組み込んでいることだ。その結果、普段使用する家電は音声コントロールが可能である。
 今の状態だけを見るととても便利そうであり、それをほかの独居老人宅などに設置できないかとか言われるが、ここで困ってしまうのはここまでの設定にそれなりに時間がかかっていることだ。
 まず光回線の導入、それなりの処理が行えるWiFiルーターの設定、そして音声化のための各種IOTデバイスの導入と設定、ここにスマートスピーカーの設定が入る。
 上記の文を見ても判ると思うが、やたら「設定」という項目が目立つ。WiFiルーターでも最近は購入して電源を入れて、付属の「かんたんセットアップガイド」を見れば接続までは行えるが、そこから少しでも外れようとするといろいろ調べなければならない。
 恐らくIT関係での設定ということに拒否反応を示す方は少なくないと思う。スマートホンの設定でも本来は個人が行うのがセキュリティ上でも良いのだが、使えれば良いと言う具合にショップに任せるくらいである。
 この部屋の状態は、賽の河原で延々と石を積み上げた結果なのである。途中までできたかなとか思ったら、突然現れた鬼に崩されて振り出しに戻ることもある。

 実はわたしの介護関係でお世話になっている方に、ホームヘルパーの事務所社長、文章確認のヘルパーの責任者が居るのだが、このお二方はわたしの部屋がゴミ屋敷から、今の状態に変化するところをつぶさに見て居る。
 なのでここの構築に時間と金と、わたしの努力と根性が使われているのをご存じであり、それが簡単に移転できないこともご理解していただいている。
 今のケアマネージャーさんは完成度80パーセントの段階から見て居るために、そこにいたる状況はご存じ無いのだ。これは致し方ないと思うのである。
 わたしとしてはこの部屋の環境を維持しつつ、ケアマネージャーさんにもご理解頂けるように説得するつもりだ。

 次回は、56名に膨れ上がった都知事選挙について語りたい。