大きな災害時において、多数のけが人が出た場合、どの症例の患者を優先して治療するかをトリアージと言うらしい。
 主に分類は4段階。レベル1は重体患者で即座の治療が必要であること、レベル2が重症患者で命に別状は無いが何らかの治療行為が必須であること、レベル3が軽傷でその場での治療は必要無いこと、そしてレベル4がすでに死亡している方になる。
 身体の中でも損傷を受けた部位によって治療の優先順位はあるわけだ。脳と循環期間は最優先、次に呼吸器官に内臓器官、感覚器官と続くのだが、感覚器官は損傷しても身体全体に占める割合が小さいし、生命に危険を及ぼすことも低いが、機能が損なわれると以後の生活環境であるQOL、Quality Of Lifeが低下することになる。
 わたしの両目がそれである。二つあるのでどちらかが機能していれば良いのだが、どちらも機能しなくなるだけで生活はかなり不自由である。腎臓もそうで、二つあるうちの一つでも稼働していれば良いのだが、これが両方とも機能しないために人工透析となっているわけだ。
 糖尿病の合併症は毛細血管が破壊されることが原因で起こるが、この合併症が怖いのは、目や腎臓のように二つある器官が、ほぼ同時に壊れる。わたしの目や腎臓も、ほぼタイムラグ無しで機能しなくなっている。
 もはやわたしの身体の中で、一般人と同様に働いている部分は少ないだろう。脳にしても加齢に伴って機能が落ちているのを実感する。
 そもそもどこかケガをしても、自己修復の機能が落ちているために自然治癒にも時間がかかる。手足などをどこかにぶつけてあざを作った場合、それが完全に消えるのに年単位をようするだろう。
 残って居る機能のうちで、わたしなりに重要と思える順番は次の通りだ。

 脳 = 聴覚 = 手 > 足 > 呼吸器 > 消化器官 > その他の機関

 普通なら最優先に近い心臓はその他の機関に含まれる。何故に低いかと言えば、心臓に問題が発生した場合には、即死状態に繋がるためにその後をあまり気にする必要が無いためである。
 脳の障害も損傷が大きければ即死に繋がるが、脳溢血の場合などに半身不随になると以後のQOLはだいぶ低くなる。聴覚が上位なのも同じ理由だ。視覚が機能していない今、もう一つの感覚器官でそれを補っているために大切なのである。
 手は作業を行う上で機能を保っておいた方が良いだろう。実は両手の中指がバネ指になっていて、きちんと曲げられない状態にある。ただ手における重要判断は、キーボードが打てるかどうかだ。
 足は自律移動がどこまでできるかにかかっているために比較的重要だ。末期の糖尿病では足の切断リスクが高くなる。切断後も義足を付ければ移動は行えるが、費用的にも訓練的にも負担がかかる。
 車いすでの生活となると今の住居も変える必要がある。そもそも今の担当ケアマネージャーさんは、わたしの住んでいるアパートの階段を目の敵にしており、ことあるごとに引っ越しを進めてくるのだ。
 呼吸器官は損傷が大きければ即死に繋がるが、機能低下状態になるとやたら苦しいのを知っているために大切にしたい。喫煙習慣が無かったことが幸いしているのか、肺はこのポンコツの中でわりに普通に機能している。
 消化器官がダメージを受けた場合の致死率は、損傷や病気の無いようによってことなるが、あまりダメージを受けると食べ物・飲み物の制限がかかるために気を付けている。
 消化器官では問題無く機能している部位が多い中、膵臓に負担をかけているので糖尿病となっているわけだ。胃や小腸、大腸などはわりに普通に働いている。
 15年近く前に東京医大附属病院に入院中、大腸カメラを行ったがポリープもなく問題は無かった。ただそれなりに時間が過ぎているので今は判らない。
 胃カメラと違って検査時の苦痛はほとんど無いが、半日ほどかけて準備が必要なのでなかなか面倒である。特に検査日の朝から3リットル近い下剤を、一人手酌で1時間かけて飲むのが辛かった。
 今の所の懸念事項は心臓より足になる。今の手術痕は左足の中指と薬指なのだが、恐らく命の危機からは一番遠い場所だろう。感染が酷ければ、足の指を失うことに躊躇は無い。
 ただ、足そのものは形状と機能を保ちたいものだ。指については親指が残って居ればそれなりに歩けるし、左足については小指も一応機能している。
 普通の靴やサンダルが履けるのであれば、杖に頼ることはあっても自律移動は可能だろう。階段を利用することもできる。これらが行えるかが足に対しての機能保全要求である。
 なのでわりにわがままで人の言うことをなかなか聞かないわたしだが、足関係の治療については指示通りに行って居る。
 それにしても、失った器官を補填するものが、意外と少ないのが現状だ。
 手足については義手義足があるが、神経に連動して普通の手足のように動く物があれば、手足の順位は下がるのに。
 まあ、そんなものがあっても、高価すぎてわたしには購入できない。なので今の手足は、心臓より大切にしようと考えている。

 次回は、東京に暮らす場合の覚悟について語りたい。