矛盾とは古来中国の逸話から来ている。
 市場で楯と矛を売っていた商人がいたが、矛はどんなものでも貫ける最強の矛であり、楯はどんな攻撃でも防ぐ最強の楯でアルト言った。
 それを聞いていた聴衆の一人は「ではその矛で楯を突いたらどうなるのか?」と言われ、何も言えなくなってしまった。この逸話から話の前後に齟齬がある場合に矛盾と言うわけである。
 やらせ疑惑で放送が終了してしまったフジテレビのバラエティに「矛×盾」があったが、この番組では何でも貫ける最強のドリルと、どんなものも通さない最強の鉄板を戦わせるという、最強通しの戦いを見せるものだった。
 細菌の傾向では最強の矛と最強の楯があれば、やや矛の方が有利であるようである。
 例えば戦車は自らが乗せている戦車砲の直撃に耐えられるような装甲を乗せているが、全方向がそれに対応しているわけでないので、車体底面とか砲塔上面を狙われると弱い。
 戦艦も同様に、乗せている最大火力の砲撃に耐えられるように作られている。なので帝国海軍の戦艦大和は主砲46センチ、連合軍の戦艦アイオアは主砲40センチなので、僚艦が戦闘すれば大和の方が強いことになる。結局戦艦同士の戦闘は実現せず、大和は航空戦力と魚雷によって沈んだ。

 昨今では矛盾勝負もハードウエアではなくソフトウエアに戦場を拡大しているように思える。
 例えばコンピュータウイルスとセキュリティーソフトの組み合わせのようなものだ。ウイルスソフトはコンピューターシステムの穴を狙っていろいろな攻撃手段に出てくる。そしてウイルスが発見される度にセキュリティーソフトはその対策を行って居る。楯側は後追いになっているが、とりあえずメジャーなウイルスを防いでいる。
 個人情報や金銭的な取り引きに使われるものは、攻撃を受けることで大きな被害を出す。そのために万全のセキュリティーが必要だ。
 当初の銀行キャッシュカードは4桁の数字によって不正使用を防止していた。システムによって異なるが、ATMなどでキャッシュカードを使用する場合、暗証番号の入力に3回失敗するとATMの中からキャッシュカードが出て来なくなり、窓口対応に切り替わる。
 ところがキャッシュカードの磁気面には暗証番号が含まれているものがほとんどだった。本来ならキャッシュカードには暗証番号を記録せずに、使用時にサーバーに照合すれば良いのだが、この技術は特許認定されていたために使わなかったのである。
 このためカードの磁気情報を読み出せるリーダーがあれば、暗証番号を抜き取るのは容易だった。一部のクレジットカードも同様だったようである。
 この脆弱性のために、店舗で買い物をする場合、クレジットカードでの決済は必ず利用者の目の前で行うように周知されていたようである。わたしがまだ目が見えていた時、新宿アドホックにある紀伊國屋のコミック書店で決済したとき、クレジットカードを店員に渡したのだが、その店員がレジカウンターからカードを持ったまま離れようとしたとき、すかさず別の店員が注意していた。
 ややあってカード類にはICを組み込んだものが出回るようになる。さらに三菱UFJ銀行では手首(手のひら)の静脈パターンによる生体認証方式がとれるものもあった。
 これらの不正対策で、このシステムは絶対に破られませんと豪語するものに限り、意外とあっさり突破されたりする。
 その一例がテレホンカードだ。今となってはこれと公衆電話を知らない世代が増えていると思う。それまで公衆電話をかけるには10円もしくは100円硬貨が必要だった。しかも100円を使う場合、通話が30円分で終了してもおつりは帰ってこない。
 テレホンカードはカードに度数が記録されており、電話を行う度にカードから度数が減らされる。カードの最低料金は500円なので、あらかじめ500円を先行投資することになるが、硬貨の残りを気にしなくても公衆電話が利用できる。
 またテレホンカードそのもののレアリティも存在し、発行元や発行年月日、デザインなどから高い価値がつくことがある。有名なのはNTTではなく電電公社が発行した、斉藤由貴さんのテレホンカードである。
 テレホンカードそのものは一種の磁気カードであり、果たしてセキュリティは大丈夫なのかと言われていたが、NTTとしては当時最強クラスのセキュリティを施しているという話である。カード対応の公衆電話も特許の固まりであり、テレビなどで放映する場合も、公衆電話の内部はモザイクがかかってはっきりと映さなかった。
 ところがこの最強の楯も、安く電話をしようと思う方々の矛にはかなわなかった。しかもよりによって公衆電話を不正情報のコピー装置に使うことで、違法に使用済みテレホンカードを度数チャージできたのである。
 これらのカードは主要駅などで、売人の方々がこっそり売っていたりする。海外の売人も多かったようだ。
 結局、携帯電話が流行ることで公衆電話もすたれていき、それに伴ってテレホンカードも利用価値より希少性での取り引きになった。

 ところで、細菌の最強のセキュリティ、楯と言ったらマイナンバーカード(Wであろう。
 一応説明すると、マイナンバーカードの中には個人を特定するための情報とマイナンバーを紐付けるための情報しか含まれていない。例えば連携している保険証や銀行口座の情報などはカードには含まれず、カードを利用することでそれらを保存したデーターベースへのアクセスが可能となっている。
 それでもデータへのアクセスを可能とするための鍵なので、それらを簡単に変更されたり複製されたら大変なわけである。国民総背番号制度に反対している方々もいるが、マイナンバーカードのセキュリティに不安を感じている方々もいるわけだ。
 それに対して政府は、マイナンバーカードに施されているセキュリティは最強の楯であると説明していたのだが。
潜入系ライターが“マイナンバーカード”偽造の実態を大暴露!
マイナンバーカード偽造を注意喚起 ”見抜き方”はカード右上のインキ「角度によって色が変化します」
 結局、このセキュリティーホールは完全に塞ぐことができないようで、数年後にマイナンバーカードは更新されるようだが、また以前のあれが繰り返されるのかと思うと疲れる。
 そもそも自分が作り出した物に最強とか絶対とか言うと、たいていは死亡フラグになることを心得ておこう。
 むしろコオロギタロウくんは、適当なセキュリティホールがあって情報流出がガバガバの方が、日本人の個人情報を中華人民共和国に流しやすくなるのでうれしいのではないかとか勘ぐってみせる。
 とりあえず次のマイナンバーカードでは、それなりの楯を築いてもらいたいものだ。

 次回は、プッチンプリンが6月まで食べられない騒動を話したい。