先日、下北沢病院に定期検診に向かったとき。介護タクシーのドライバーさんに連れられて受付をすませ、診察室のある二階に向かうエレベーターを待っていると。
???「あら、びわほうしさん。こんにちは」
わたし「? ええと、こんにちは」
???「教はどうされたんですか?」
わたし「ええと、定期検診で」
(ここいらでわたしが誰かを認識していないことに気が付く)「わたしは透析室のスタッフです」
わたし「ああ、そうでしたか。お久しぶりです」
 そして二階に上がって診察を受けた後で一階に戻るエレベーターを待っているとき。
???「あら、びわほうしさん。こんにちは」
わたし「こんにちは」
???「お体の具合はどう?」
わたし「足は良いのですけど他がいろいろと」
???「どこが悪いの?」
わたし「主に頭です」
???「もう、冗談は言わないの」
 ここで去って行く。
わたし「……ところで、誰だろう?」
 その後、付き添いのドライバーさんが「二階で良く見かける看護士さんみたいということで何となく思い出した。

 このように、わたしの場合は他人から認識されやすいが、わたしは誰であるかを認識するのが苦手である。
 前例の言い訳をすると、透析スタッフの方はおおよその身長も知らなかったので区別ができなかったのである。
 透析室には車いすで入り、そのままベッドに移動するのでわたしはほとんど立ち上がらずに低い位置からスタッフの方々と会話をしている。そのために件の方も高身長と誤解していた。
 二人目の看護士さんも処置室でお逢いしているのだが、こちらは治療用のベッドに腰掛けているために身長差が判らなかったのである。
 わたしが人物を判別する手段は身長と声質、それにしゃべり方などである。一般人であれば姿を見ることができるし、視覚情報は人間が取り得る外部情報の8割近くになるのだ。
 と言い訳をしつつ。実は目が見えていた頃から人の判別は不得意だった。
 それなのにこちらの外見は特徴的なのか、相手はわたしが誰かきちんと判って居る。そして自分が判って居るのでわたしも判って居ると思い込んで話してくるわけだ。
 ところがこちらは誰か判定できないままに会話に突入するために、ところどころで探りを入れながら情報を入手するのである。

 とある非、会社にて。
???「お、びわほうしさん、久しぶり」
わたし(久しぶりということは以前どこかで?)「いや、久しぶり。元気でしたか。お仕事は以前のままで?」
???「一応そのまんまなんだけどね、やっぱりゲーム開発はいろいろと苦労が多くて」
わたし(ゲーム関係か)「そうなんですね。先日のあれってどれくらい出たんですか?」
???「バトルレーサーかな。期待したほど出なかったよ。スタッフもがっかりでさ、特にグラフィックチーフの岡山が……」
わたし(なるほど)「そうなんですね、でもEさんもお元気でなによりです。もう少しお話ししたいところですけど、打ち合わせがありまして」
Eさん「そうなんだ、今度連絡するから。メアド同じでしょ」
 と言う具合になるわけだが、目が見えている間は相手の仕草なども判定基準にできたが、今はそれも難しい。

 なので今では…… 別の病院にて。
???「あ、びわほうしさん。こんにちは」
わたし(はて、この身長はどうも覚えが無い)「こんにちは」
???「教はマリンカラーなんですね。初めて見ました」
わたし(どうやら着ているパジャマの色らしい。すると真冬と真夏にしか逢っていないということか)「以前は冬にお逢いしましたっけ。お久しぶりです」
???「今の季節はその服装なんですね。真っ赤な服もお似合いでしたよ」
わたし「こちらからそちらの服も診られないのは残念です。あの病院って看護士さんとか技師さんで制服が異なるんでしたっけ」
???「そうですよ。ただわたしたち技師はグリーン系統ですけど半袖しか無く手冬は寒いってお話ししましたよね」
わたし(なるほど、技師のAさんか)「そうでしたねAさん。でも夏は涼しいとみなさんおっしゃってますから。暑いのは苦手でしたよね」
Aさん「そうなんですよ。とりあえず夏には期待です」

 わたしはどこぞのホームズか。場合によると声に特徴がありすぎて、心の中のあだ名でしか思い出せない場合もある。そのあだ名はOL進化論の社長秘書・礼子さんの「人の覚え方講座」で教わる、口に出して言えないようなものにしているためにうっかりと発音もできない。
 そんなわけで、どこかでわたしを見かけた方、まずは名乗って頂けるとありがたいです。

 次回は、日本の楽曲における歌詞の中の英語について考えたい。