昨今の客商売ではアルバイトを雇うのも難しいらしい。なかなか人が集まらず、コンビニなどでもレジに立つ海外の方々が増えているようだ。
 そこにはZ世代の若者がわがままとかいろいろ言われているが、人材が不足しているはずなのに企業も選り好みが激しいという理由もあるだろう。確かに仕事に向かない人を雇っても意味が無いわけだが、その条件に深く関係しているのが見た目の問題だ。
 ここで職種が接客業か裏方かによってだいぶ変わってくるが、本来は外見をそこまで気にする必要がない裏方でも、見た目で採用されないパターンはある。たとえばわたしのようなスキンヘッドにサングラスという要望では、大きな企業の技術職でも採用を断られるかもしれない。
 ともかく社会人は紺色の上下スーツ、白いワイシャツにえんじ色のネクタイに黒くて薄い靴下と革靴、そして七三分けで短髪に黒縁眼鏡という要望が日本人の典型的なサラリーマン像と言われている。
 今時そんなものが居るかとか思われそうだが、毎年就職活動のシーズンになると、街中に真っ黒スーツに着た若者たちがうろうろしているところを見ると、やはり見た目の問題は大きいのだと思う。
 お隣の大韓民国ではアメリカ人のポリコレ主義者が心筋梗塞を起こしそうなルッキズム主義となっているらしく、外見を美しく見せるための整形はすでに礼儀と言われるほどだと言う。なので美男美女であるがどこかコピーペーストして作られた存在のように区別ができないとも言われている。
 そう言えば美容整形と自分の身体で人体実験することで有名な高須克弥医師が言っていたのだが、大韓民国の美容整形はもともと、高須医師が持ち込んだ美容整形マニュアルが元になっているそうだ。ただ、そのマニュアルは高須医師が更新を繰り返しているのに対して、隣国ではそのまま使い続けられているので問題も多々あるという。もし隣国で美容整形を行い、何らかの問題がおきたら自分のクリニックに来てほしいとおっしゃっていた。
 閑話休題。裏方ですら見た目で弾かれることがあるのだ、接客業となるとそのハードルはぐっとあがってくる。
 これがアイドルとかホストとか、ともかく見た目が価値の重要度を示すのであれば致し方ない。見た目の美しさも才能の一つである。
 ただハードルが高い職業はそれなりに見返りもあるわけだ。トップの芸能人になれば巨万の富も得られるわけだが、街中にある飲食店のアルバイトのように、規定の時給ギリギリで働く場合にも、見た目の高いハードルを求められるのはやや理不尽かもしれない。
 飲食店の場合は要求される水準として、食品を扱うために見た目で不潔と思われるのは無理だろう。あと接客業全般に言われることだが、日本国内で働くのであれば日本語がきちんと理解できて、会話が普通にこなせている必要がアル。他の言語が話せるのはインバウンドのお客さん対応には良いが、まずは日本語のコミニュケーションがきちんとできないといけない。
 最近は髪型と髪色に対してのハードルは下がったように思えるが、それでも自然な茶髪は許されても金髪はNGとかあるわけだ。男女ともに長い髪型は切らなくても労働中はまとめるように言われるようである。
 そして過度の化粧を行わない、匂いのきつい香水は付けないなど、接客中の注意事項も多い。それでいて「お・も・て・な・し」の精神でスマイル0円で働けとか言われれば、そりゃ見返りが少なすぎて働こうとも思わないと思うのである。
 つまり雇う側としては、要求は多いくせに払う者は払わない。そんな額を払うぐらいなら海外労働を導入しろとか言い出す経団連という老害を何とかしないといけないと思うのである。

 いろいろと行ってきたが、わたしの場合は何度も述べているとおり美醜の概念から解き放たれた存在である。見た目で相手を判断することができない。それでも判断するものはあるわけで、それが声と話し方になる。
 例えば、目の前にきちんとしたサラリーマンをした男性が立って居て、彼がわたしにけだるそうな声で挨拶した。
「あざとぅーす」
 もう一人はモヒカンヘアにキャッツアイのサングラスと革ジャン姿だが、とても丁寧で落ち着いた声で。
「いらっしゃいませ(ハート)」
 そうなるとわたしは後者の人物を信用するわけである。わたしにとって声と話し方が、一般における見た目なのである。
 そんなわけで、接客されたわたしの相手に対しての評価は、他の人とそれなりに異なっていたりするのだが、今までそこまで無礼と思う相手には遭遇していなかった。
 わたしが盲人であるために、より丁寧に接客していただいたのかもしれない。そもそも店舗にはあまり出向かないので接客業の方々と逢う機会が少ないのである。
 そんなわたしであるが、他の人に比べて特定の職種の人と接触する機会が多いと思う。それは医療関係の方々である。
 まず週に三回、透析クリニックに出向いているためにここで看護士さん、技師さん、医師さんと必ず逢う。そして透析を行うために会話することになる。
 医療関係者の女性に聞いてみると、化粧や髪型に規定があるようだ。別に髪を伸ばしてはいけないということでは無いが、ロングヘアの場合は肩にかかる位置にまとめるようにしているらしい。あと、髪色は茶髪程度まで可能ということだ。
 看護士さんが髪を伸ばしたままにできない理由は、病棟で配膳したり、患部を治療するときに毛先が食品や患部に触れることを避けるためでもある。ここら辺は言われれば納得できるところだ。
 金髪などの髪色はできないそうだが、これも印象操作なのだろうか。
 実はまだわずかに目が見えていた頃、東京医大病院の眼科に入院し、翌日の手術のための同意書をとりに士長さんともう一人看護士さんがやってきた。
 士長さんは黒髪のショートで見慣れた姿だったのだが、もう一人の方は金髪にツインテイルで毛先は腰まで届いていたのである。
 こんな髪型でも大丈夫なんだと思って、手術後に他の看護士さんに聞いてみたのだが。
「そんな髪型と髪色の人がいるわけないでしょ。なんて名前の子?」
 そこで当日訪れたという看護士さんを再度連れてきてくれたのだが、自然な茶髪のボブカットだった。あれは厳格だったのか。それともいつの間にかわたしの心はナースエンジェルを求めて居たのか。
 今でもあの光景は何となく思い出せる。いや、仕事が異なってしまうかもしれないが、そんな看護士さんが居ても良いのにとか思ったわたしだった。

 次回は、何かを知らせることの難しさについて語りたい。