今回の入院だが、入院時は介護タクシーで病院まで送ってもらったものの、その後の入院手続きと院内の移動はわたし一人で行った。
 これは経費節減もあるが、ある程度は自分一人で行えた方が良いだろうと思ったことと、病院側の対応を見る事にある。もし今回で無理があった場合は、次回以降の入院時に介護者さんを依頼しなければならないからだ。
 必要書類についてはヘルパーさんの協力のもとに作られていたこともあり、補足説明程度で受付は終了。その後、受付の方の案内で病室階に移動してその後は病棟担当の看護士さんに受付が引き継ぎとなった。
 結果だけを見れば一人でも入院は行えたが、それでもいたらない部分はあったわけだ。今では身近に立ち会ってもらえる身内もいないのである。何がどこまでできるのか、またできないことについては把握しておかなければならない。
 ベッドにたどりついてしまえばあとは何とかなる。3年前と言え一度入院したことがあるため、その後の生活上の不安はそこまで無かった。
 病棟の移動は盲人と言うこともあり、職員に先導を受ける事になる。わたしの場合は移動先としてトイレ、シャワー、リハビリ、透析の四カ所しか無いために、普段はほとんどベッドの上で過ごすことになる。元々の引きこもりなので特に不自由は感じなかった。
 今回持ち込んだ荷物は少々大きめのスーツケースとエコバック、それに貴重品を治めたウエストポーチである。エコバッグの中には入院用の書類や普段飲んでいる薬など、入院時にすぐに必要になるもので、ノートパソコン類はスーツケースの中である。
 スーツケースはキャスターと引き延ばしが可能なハンドルが着いたものだが、これを押して歩いているときにちょっと不思議な感覚を覚えた。
 自分の左前にスーツケース、左手にハンドルをもって右手は白杖を操っていたのだが、このスーツケースを転がしていると、それが丁度介助者や盲導犬のような存在に感じられ、白杖だけで歩くのに比べて安定感があった。
 ちなみに盲導犬を実際に利用したことは無いが、大きさ的には同じような感覚なのだと思う。
 ただ、院内の床は平滑で移動しやすかったのだが、入り口やエレベーターの乗降口には段差があるためにややつっかえる。ここは職員の方に手伝ってもらった。
 以前読んだ記事に、盲導犬をロボット化するときはキャリーケースのような形状になるだろうと言われていた。確かに視覚障碍者を誘導できれば、それは犬の形で無ければいけないということでは無い。むしろ、盲導犬は四足歩行するために前後に長いスペースを必要とする。
 キャリーケース形状であれば、一見するとお買い物をしている一般人にも見えるだろう。
 このような視覚障碍者の単独歩行支援のためのスーツケースを開発している団体が居るようだ。
AIスーツケースで視覚障がい者も「街を楽しむ」未来を。日本科学未来館で初の「屋外」実証実験
 AIスーツケースという名前は安直だと思うが、スーツケース形状のトランクの上部に外部の情報を確認するセンサー、キャスターは自走が可能であり内部にはコンピューターとバッテリーを積み込んでいるようだ。盲導犬とは異なり、目的地を指示すれば、そこまでのルート案内と周囲の状況を解析、GPSで現在地を確認しながら自走するという。
 まさしく視覚障碍者の独立歩行を行うためのものである。スーツケース形状のロボットと言える。
 まだ実証実験の段階であり、今後は公道でどのように運用できるかの試験もあるだろう。実物の仕様が判らないので何とも言えないが、これをわたしが利用すると考えて懸念点を上げて見よう。

・階段と段差の問題
 これは車いすの利用者でも必ず問題となる部分で、車輪形状の移動物体は段差を乗り越えるのが難しい。
 車輪を大きくすることで乗り越えられる段差も高く設定できるが、あまりに大きすぎる車輪は取り回しが難しくなる。車いすのように大きな車輪が一対、補助的なキャスターが一対の場合、段差を乗り越えるために車いすを背面に向けて傾ける必要がある。
 補助がいない場合の車いすでは、段差を乗り上げるときに背面に体重がかかるため、勢い余って後方に倒れないように気を付けなければならない。その傾斜角故にあまり大きな段差は越えられない。
 これは車いすに乗ってみると判ることだ。車いすの利用者がスロープを望むのは危険回避から当然に思える。なので段差の連続する階段の昇降は、一人では無理となる。
 スーツケースロボットも車輪の形状を考慮しないと、この段差を乗り越えるのは難しいだろう。ケースの中の制御機器がどれほどの重量になるか判らないが、一時的にもそれらを持ち上げられなければならない。
 一部のスーツケースには段差の昇降をやりやすい機構がついたものもある。車輪部分が正三角形の頂点に配置され、その重心部分が車軸となって回転できる三輪車(対なので六輪車)になっているものなどである。
 これらの機能をうまく組み込んで、段差を移動する場合に自動昇降モードに切り替わるようになってほしいものだ。

・機内にもちこめるか
 このキャリケースロボットにはコンピュータと車輪を駆動するためのバッテリーが必要である。
 電動車いすなどを航空機に持ち込む場合、バッテリーの仕様と容量、形状によっては客室はおろか機内倉庫に持ち込めない場合も或。
 現在のリチウムイオンバッテリーは振動などから発火のリスクがある製品もでまわっているのも事実だ。ここは安定の全固体電池が、いろいろな分野で安心して扱えるようになってほしいものである。

・価格の問題
 これだけ高機能になるために、最終的な問題は発売もしくはリース価格がどれほどになるかである。
 盲導犬と異なりロボットであるため、メンテナンスをきっちりと行えば運用寿命は長いと思うが、可動部品もそれなりにあるために消耗品対策も必要だろう。
 また、貸与という形にもしづらいと思うので、購入時の価格+運用コストがどれほどかかるかだ。
 これも日常用具給付対象となれば良いと思うが、それらに認定されるには公道での使用許可が下りてからになるため、果たしてどれほど時間がかかるか判らない。

 視覚障碍者の単独歩行に向けたものは多く開発されているが、研究段階にあるものも多く、エンドユーザーに降りてくるには時間が掛かる。
 また運用数も限られているために価格は高いままであり、多くの障碍者はなかなか気軽には触れられないだろう。
 それでも新しい試みが出て個無ければ確信も無いわけである。もしわたしが協力できるようなものがあれば、率先して使ってみたいと思う。

 次回は、買い物に悩む初老の考えを話したい。