わたしの名前はびわほうし茂夫、病気のせいかやっかいな外科治療をよく受けている被拷問ソムリエだ。この身体の病が呼ぶのだろう、今日も身体の不調がわたしのもとに訪れる。
 本日も違和感を訴える患部がわたしのもとにやってきた。それはどこか傷つき、親指の先端がやや欠損しているが、普通の28センチメートルの左足に思えたが。
「どうぞ、おかけください。本日はどのようなご用件でしょうか」
「わたしの、わたしの中指の治療を行って下さい!」
 その時、足の裏に鬼が宿る。

. そんなわけでヒューマンバグ大学の人気シリーズ「拷問ソムリエ、伊集院茂夫」の導入フォーマットに従ってみた。痛くも痒くも苦しくも無い糖尿病の症状だが、そこから引き起こされる合併症の中で、末梢神経障害からくる足の壊疽などがそれなりに苦痛を伴うことを解説したい。
 これを読むことによって、末期糖尿病を防ぐために考えていただければ、わたしの身体を笑っていただくことに何の躊躇も無いのである。
 改めて糖尿病の三大合併症は、網膜症、慢性腎炎、末梢神経障害だが、そのいずれの原因も毛細血管の異常からくるものだ。
 血液内の糖分が多くなると、血液の粘性が高くなり全身に血液を送るために血圧が常時高くなる。これによってある程度太い血管は耐えられても、全身に張り巡らされた毛細血管はダメージを受ける。眼球の網膜内の毛細血管が破壊されることで視力の低下や緑内障を起こす。これが網膜症につながる。
 腎臓の濾過機能であるネフローゼは毛細血管の固まりであり、ここにダメージを受けることで濾過機能が正しく行われなくなる。これが慢性腎不全につながる。
 そして身体の末端にある毛細血管には酸素や栄養分、身体を再構築するための物質が届き辛くなり、神経が機能しなくなるのが末梢神経症だ。
 末梢神経症によって身体の末端部分、特に心臓から一番遠い足の指先などは感覚が鈍くなる。そして常時しびれるような感覚に襲われる。ここに外傷ができても認識しづらくなり、発券が遅くなる。
 アニメ・働く細胞をご覧になっていると判ると思うが、外傷ができると血小板が凝固して破損部分を止血し、体内を外部から隔離する。そこに紛れ込んだ細菌などは白血球チームが破壊し、赤血球が酸素や栄養素、タンパク質などを運ぶことで破損した部分を修復する。
 この中で血管に関係無く動けるのは白血球だけだ。血小板や赤血球は血管のなかの血流で動くしかない。
 毛細血管がどれほど細いかというと赤血球が並列で通るのが難しいほどである。つまり、その血管がダメージを受けると修復担当の血小板と、輸送担当の赤血球が通れなくなる。傷は塞がらなくなるし修復も難しくなる。
 そこで破損部位は修復ができなくなり壊死して壊疽状態となるわけだ。壊疽とかさぶたはよく似ているが、かさぶたが外気と体内を遮断するためのものに対して、壊疽は肉体が破損し修復が不可能になった部位である。どちらも最終的には肉体から剥離することになるが、壊疽部分には体液がまったく通らなくなるために細菌からの進入もブロックされなくなる。
 この壊疽部分が皮膚や筋肉で止まっていればよいが、骨に達するとそれなりにやっかいになる。そして骨に達すると、とても痛い。
 どれくらい痛いかというと鎮痛剤は効かないし、患部に触れただけで全身がぶるぶると震えて止まらなくなるほどである。
 なので壊疽部分は自然に剥離する前に、そこが広がることを懸念して積極的に取り除く。これをデブリと呼ぶらしいが、これまた壊疽の部分はそれほどでも無いが、そこに接している生きた組織が痛みを感じるのである。
 しかも大抵は麻酔が行われず、外科医はハサミやメスのようなもので患部をえぐる。
 医師は患者の苦痛を自分にフィードバックしてはいけないと教わるようだ。外科手術を行う場合でも、目の前にあるのは人体では無く、ある程度に新鮮な肉のかたまり。メスで切ったりすると体液がにじむ程度に新鮮なものとして、感覚を鈍らせるようである。
 このデブリがどれほどきついかについては、わたし自身が痛みに弱いだけかと思ったが、三年前に下北沢病院に入院していたとき、医師の巡回のときにデブリされていた他の患者さんも充分痛そうな声を上げていた。
 大体肉体の内側は外気に触れてはいけないために、痛覚などはそれに対しての最大の警告である。ただでさえ外気に触れて警告が出ている部分に対して、あおりちらすように肉体を一部破壊する行為である。なるほど、これがリアルの拷問かと納得するのである。
 今回の入院と手術後にどのようなデブリが待っているか判らないが、細菌の外科的治療の経口として、傷口部分になるべくかさぶたは作らない方向にあるようだ。
 湿潤処理と呼ばれるもので、かさぶたを作らないことで体液循環を良くし、傷の治りを促進するようである。
 ただ、わたしが読んだものでは、かさぶたになってしまった部分についてはあえてそれを剥がす必要は無いとあったのだが、どういうわけかかさぶたを見ると剥がさずにはいられないのかすぐにそれを取り去って出血をしてと繰り返すことになる。
 その方法でも右足の小指部分はきちんと直ったのだしよいかと思って居る。

 さて、今回はどのようなことになるのか。来週の今頃は入院二日目、手術前の最後の透析となる。
 とりあえず雛祭りである日曜日は、穏やかに過ごせればと思うのだ。

 次回は、入院前に行わないといけない食品の処分について語りたい。