実のところ、知らない人の第一印象は外見にかなり引っ張られるようだということである。
 わたしの場合、何度も説明している通り外見の美醜からは解き放たれている。そもそも外見で判定することはできないのだし、何度か人の顔に触れさせていただいているが、パーツの配置は判るが、それが美しいかどうかは判らない。
 ただ、それ以外の感覚では捉えられる。主に嗅覚と聴覚である。
 日本にいると嗅覚で気になる人物というのはなかなか出会えない。むしろ自分の匂いがどう伝わっているのかが気になるほどだ。なにしろ所労の男だし、俗に言う加齢臭が出ていても不思議では無い。
 なので匂いでこれは危険と感じる人にはめったに出逢わないのである。
 聴覚は主に声質と話し方になる。ただ、声質で性別までは判定できても年齢を特定することはできない。
 ただ声質によって好みの問題はあっても、その人の人格を左右するほどの判断材料とはならない。会話していて敬語などが怪しいと思うことはあるのだが、これも当のわたしも敬語が苦手なので人のことは言えないのである。
 このように目が見えなくなってから、初対面の人間をマイナス方向で判定することはぐっと減ったと思う。もともとコミ賞のわたしだが、相手の顔を見られないというのはストレスがかからないのである。
 これを前提に、ここ最近で体験したことを書こう。

 わたしは病院などに訪れたとき、中での移動支援にいわゆる何でも屋さんをに依頼している。
 その時はいつもの何でも屋さんが廃業するということで、新規の何でも屋さんに依頼することになった。
 自宅から病院まで、そして病院の受付までは介護タクシーを利用しているが、そこで病院で待ち合わせた何でも屋さんとバトンタッチする。
 実はこのバトンタッチの時、介護タクシーのドライバーさんが妙な声を出したのだが、その場ではそのまま決済を行って別れたのである。
 新しい依頼ということで少々不慣れなところもあったが、病院内での移動、料金の精算、帰りのタクシーの確保まで行っていただいた。
 ただ、料金は少々高めであり、次回同じ方に依頼することは無いかなと思っていた。
 その次の通院時は介護タクシーのサービスに時間指定の予約方法と言う者があることを知った。
 つまり、特定の時間帯を予約することで、定額料金ながら送迎と病院内での移動補助を行っていただけるものである。料金を聞くといままでの、行きは介護タクシー、病院内は何でも屋さん、帰りは普通のタクシー料金を合算するよりそれなりに安くなることが確認出来た。
 それに一連を同一のサービス会社に行って居た抱けるので引き継ぎのすれ違いも発生せずに良いだろうと思ったのである。
 そして当日、行きの介護タクシーの中でドライバーさんに質問された。
「先日、わたしがお客様を病院まで送迎した者なのですが、あのあと窓口に居たのは通院補助の方ですか?」
「そうです。いわゆる何でも屋さんですね」
「失礼な質問かもしれませんが、その方の案内は大丈夫でしたか?」
 何故にこのような質問をするのだろうと思ったが、そこを突っ込んで聞いてみると第一印象が良くなかったとのことである。
 まずご本人の見た目は上下でジャージ風の衣服、足下はクロックス、そして中途半端な金髪のロン毛であり、その方が乗っていた車はボンネットにゴミが溜まっていたとのこと。
 それを見た介護タクシーのドライバーさんは、当日あのような声を上げたのだという。なるほど、それで理解できた。
「案内に少々不慣れなところはありましたが、きちんと補助を行っていただきました。それにわたしの補助の途中でも、他の方から依頼の電話も入っていたようですし、特に問題には思いませんでしたよ」
 確かに言葉尻に少々不安なところもあったが、わたしの補助はしっかりと行ってくれたし、料金の支払いや帰りのタクシーの確保も問題無かった。
 つまり、わたしにしてみると特に問題を感じなかったが、目が見えている方にしてみると、外見でかなり損をしているのだろう。
 それは少しもったいないように思える。料金の面で折り合いがつけば、わたしは再度依頼することに不安は覚えなかったからだ。
 外見上の印象で言えば、わたしも良い方では無いことを自覚している。それでも周りから良くしていただいているのは、右手に持っている白杖で視覚障碍者であることが明白だからだろう。
 第一印象、特に外見というのは未だに大きなウエイトを占めていると思い知った事例であった。
 わたしも少しは相手に不安を与えないような外見で異様と思った。

 次回は、アナログ放送が行われていた頃の思い出を語りたい。