わたしが利用している透析クリニックには5名の臨床工学技士(ME)さんがいらっしゃる。毎年一名のペースで新人さんが配属されていたのだが、2023年度は無いらしい。
 以前は4名の女性MEさんが居たのだが、二人は別の系列クリニックに移動となり、一人は3月末でお辞めになった。なので今では女性MEさんはお一人である。
 移動となったMEさんの中でTさんは今年で5年目となるベテランである。時々応援としてわたしの通って居るクリニックに補助に入るが、新人の頃はどこか気弱で思考がマイナス方向に走ることがあった。系列クリニックに移動となってどうしたのだろうと思って居たが、そこでそれなりに経験を積んで対応も丁寧になっていた。
 先日、Tさんが穿刺担当となって除水の設定を行った。ドライウエイトは77キログラム、前回の終了時の体重は77.7キログラムで、ドライウエイトが合っていないために77キログラムを目指すと血圧が極端に低下する。
 そのため、77.5キログラムを目標にするようにとクリニックの医師と話をしていた。
 その日の体重は80.2キログラム。目標を77.6キログラムとすると100グラムを追加して除水量は2.7キログラムかなと計算していた。
 そこにTさんがやってきて血圧測定のあとで除水量の相談となるのだが……
「ドライウエイトまでが3.6キログラムですけど、除水量はどうしますか?」
 ん? 3.6キログラム。わたしの計算と300グラム異なるが、体重を聞き間違えていたかなと思って聞き返さなかった。
「それであれば600グラムを残して下さい」
「はい、では除水量は3キログラム、目標体重は77.6キログラムです」
 目標体重に間違いは無い。そこで了承してから穿刺を行い、その後スムーズに透析が始まった。
 透析開始後10分ほど過ぎて、看護士のRさんがダブルチェックにやってくる。
「今日は3キログラム除水で300グラム残しDEATHね。目標は……」
 ここで困惑しているご様子。それはわたしも同じで目標体重が77.3キログラムになっている。
 そこで測定体重を確認してみたが、体重計の数値は80.5キログラム。ここからサンダルの重量300グラムを引いて体重は80.2キログラムとなる。
 つまりTさんはサンダルの重量を引く前の体重で除水量を計算していたことになる。見かけのドライウエイトと本当のドライウエイトが合っていれば300グラム余計に引いても問題無いが、今のわたしでは血圧がかなり下がるはずだ。
 Rさんと確認し、除水量は2.7キログラムに変更した。
 そして4時間が経過、透析は無事終了する。
 穿刺針を抜くためにやってきたのはTさんだった。
 そこでどうしようかと少し考える。体重計算のミスは問題だが、以前のTさんであればそこを指摘すれば落ち込むかもしれない。
 しかしTさんも5年目のベテランである。自分のミスは自覚しなければならない。そこで体重計算のミスを説明した。そしてRさんのダブルチェックで事なきを得たことも説明した。
 最初は驚いたようだったが……
「計算ミスのことを教えていただいてありがとうございます。今後さらに注意しなければいけませんね」
 Tさんは謝罪のあとにこのように言った。そして……
「今回の用にきちんと指摘していただいて、とてもありがたいです」
 その口調は落ち込んではいなかった。きちんと自分の責任問題と認識していると思った。
 自分のミスを認識して、それを認め、さらにどうしていかなければならないか、それをきちんと考えているようである。
 もはやTさんは新人の頃に魅せた気弱なところは魅せなくなっていた。
 それでももう5年目だからベテランだねと言うと照れる。止めてくださいと言うが、ずいぶんと立派になったと思うのだ。
 以前にも書いたが、医療従事者が新人から一人前になるまでの時間はとても短いと思う。例え新人として病院に配属されても、半年もすれば一人前に見える。
 それは手慣れていない様子を患者さんに見せることは、不安をあおるだけだと認識していることと、人の命を預かることのプレッシャーで成長が加速されるのだろう。
 Tさんの年齢はわたしから見れば娘のようなものである。その娘がこうやって立派に成長していく姿は、たとえ目が見えなくてもまぶしく見えるものだ。
 転ばないことは大切だが、転んでも再び立ち上がり、さらに歩みを進めることはもっと大切だと思う。
 よって、以後も何か気が付いたところがあれば、指摘していこうと思う。
 その前に、わたしのだらしない生活が突っ込まれそうで怖い。

 次回はコンテンツのサポートについて語りたい。