松山千春さんと言えば、わたしが高校3年生の頃、ニューミュージックの流行りとともにテレビに出ない歌手として有名だった。
 丁度修学旅行の時、ザ/ベストテンで唯一の出演を行っており、そこで何故テレビに出ないのかを丁寧に説明していた。当時、ニューミュージックの歌手がベストテン番組に出ないことが流行っており、ランキングに入れば喜んで久米宏さんと黒柳徹子さんの待つスタジオに登場するところ、出演交渉中ですとの切ない説明があるだけだった。
 また、中嶋みゆきさんやさだまさしさんなどとラジオの深夜放送ではじけており、松山千春さんとさだまさしさんの薄毛をネタに爆笑していた。
 ややあって、松山さんは髪の毛をすっぱりと剃ってしまい、坊主頭で登場する。顔の作りは良かったのでスキンヘッドもとても似合っていた。
 アーサー=C=クラークの「宇宙の戦士」に登場する兵士は、男も女も坊主頭なのだが、主に宇宙船の操縦士は女性が務めており、主人公は同僚の女性兵士の坊主頭を見て「綺麗な人は坊主でも綺麗だ」と思っている。
 今回は髪の話では無く、長い夜の話である。実はわたしは、連続して3時間以上寝られない体質なのである。

 いつ頃からそんな体質になったか判らないが、おおよそ予想がつくのが体重が100キログラムに達しようとするころ、睡眠時無呼吸症候群になったことがあった。おおよそ20年ほど前になる。
 今のドライウエイトは77から78キログラムの間をうろうろしているが、一番太っていた時には98キログラムとなっていた。透析を開始する直前だ。大台は超えていないが今より20キログラムは多く、2リットルのペットボトル10本分の何らかが今の腹の周りについていたことになる。
 その時は余分な何かは喉の周りにもついている。普通に仰向けに寝ていると、舌が喉の奥に落ち込み塞ぐことで呼吸が困難となる。
 糖尿病の学習入院で無呼吸症候群の検査を行ったが、予備軍であることが知らされ、その頃からわたしはあおむけに寝ることを止めて、右か左の横向きに寝ることとなった。それがいつの間にか習慣化し、あおむけでは寝られなくなったのである。
 そして体重のせいか寝返りが打てないからだとなった。つまり、右向きに寝ると次に起きたときも身体は右向きになっている。
 横向きに寝ると脳の中の血液もどちらかの脳に偏ることになる。寝ているときに寝返りが打てないわたしは、どうやら脳がうっ血する前に目が覚めるようだ。しかも目覚めた時の爽やかさはほとんどなく、場合によると偏頭痛を起こすこともある。
 そんな生活を10年近く送っていたせいか、わたしの睡眠時間は2から3時間寝て耐性を変化させすぐにもう一度寝る、それを8時間分程度繰り返しているようになった。

 以前にも述べたが透析を始めるようになって、クリニックの医師に睡眠の状態を相談したところ、睡眠導入剤を処方され、試しに使ってみたがあまり効果は無かった。
 それもそのはず、わたしは寝付きが良い方で、まるでのび太のように布団に横になるとすぐに寝付くことができる。昼も夜も関係無い。外の明るさはわたしには関係無いからだ。
 いただいた睡眠導入剤は素早く寝入るためのもので、睡眠を長時間持続するものではなかった。そこで再び医師に相談、長く眠れるようになる薬はあるのかと相談した。
「あるにはあるけど、常に眠くなって睡眠不足をずっと引き鶴用になるよ」
 なるほど、寝起きは悪いが一度起きたらきちんと意識ははっきりしている。それに睡眠不足が追加されては意味が無い。
 それにわたしは精神をコントロールする薬にはあまり手を出したくない。
 透析では4時間近くあおむけで過ごしている。1時間に一回程度は血圧測定があるために起きることになるが、短い間ならあおむけに寝ることができるようになった。
 それが自失でもあおむけで寝ることがある。そうなると、寝返りを打たなければ後頭部に血液が溜まることになるが、横向きに寝るよりは良いかもしれない。
 昨今は集中力が切れることが多く、何でも長時間行う事が難しくなっている。
 そのためか透析が無い日は何かと良く寝ているように思える。特に仕事の無い日曜日は、ほとんど何か行った記憶が無いほどに寝ている。
 寝不足では無いのだが、こどものころのように夜寝たら、次に起きたら翌日の朝だったという感覚を味わいたいと思いつつ、そろそろ朝にも目覚めることが無いかもしれないという可能性にすこしびびっている還暦前の男だった。

 次回は出前のラーメンについて語りたい。