Chapter _ 9 崩れ始めるパズル
――今必要なのは、〇〇が“あそこ”に行ったという証拠だ。
そう考えていたその時、背後でサークル室の扉が開く音がした。
「先に帰れって言ったのに、どうして戻ってきたの?」
当然、俺のことが気になって戻ってきたミナだと思い、振り返った。
だが、そこに立っていたのは、そっと扉を開けて入ってきたヨンジ先輩だった。
「え? あなた、この前入った新しい子よね? 名前は……キム……」
「はい! はじめまして! ハン・ジュヨルです!」
「ああ、そうそう、ハン・ジュヨル。
でも、こんな時間に一人で何をしてたの? あなたもイェビンの事件で残ってたの?」
「はい。ちょっと一人で確認したい資料があって……」
「そうだったのね……」
「先輩も、同じ理由で来られたんですよね?」
「え? 私?
うん……みんながまだいると思って来たんだけど、誰もいなかったから、明日また来ようと思って」
「そうだったんですね……」
「あなたは、いつまでここにいるつもり?」
「僕も、もう帰ろうと思ってます」
「そう? じゃあ一緒に出ようか」
ヨンジ先輩と俺は静かにサークル室の電気を消し、
気まずい空気だけが漂う地下を抜け、エレベーターに乗り込んだ。
その重苦しい沈黙を破ったのは、ヨンジ先輩だった。
「……実はね。
イェビンには、すごく失望してたの。
正直、死んでしまえばいいって思ったこともあった……」
「……あ、実は先輩たちから聞きました。
あのペンションの時の話……」
「そう……?
最初は本当に、イェビンが恨めしくて、一人で全部を独り占めする姿も見ていられなくて……。
色々あって、すごく憎んでた。
でも時間が経つにつれて、イェビンへの考えも変わっていったの。
あの時、私自身が勇気を出せなかったのも事実だし……。
だから、イェビンのお祝いに行った日、話している途中で私が先に帰ったの。
それで翌日、謝るつもりもあって、お祝いもちゃんと伝えようと思ってイェビンの家に行ったんだけど……
サランとすごい勢いで喧嘩してて……。
入るのも気まずくて、場所を外したのよ。
……でも、その日に、あんなことになるなんて……」
「……そうだったんですね。
先輩も、相当つらかったでしょう……」
「今でも、胸が痛い……。
だから、私なりに助けたい気持ちはあるんだけど、仕事が忙しくて……。
あまり力になれなくて、みんなにも申し訳ないの……」
「僕が、もっと頑張ります。
先輩たちの代わりに、必ず犯人を見つけます!」
「そんなふうに言ってくれると、本当に心強い。
家に帰るの? 送っていこうか?」
「……はい。お願いします!」
「じゃあ、ちょっと待ってて。
上に忘れ物を置いてきたから、それだけ取ってくるね」
そう言い残し、ヨンジ先輩は本庁舎の方へ向かった。
俺は彼女を待ちながら、先ほど目にした資料の内容を反芻していた。
しばらくして、エレベーターが降りてくるのが見えた。
【しばらくして】
「チン――」
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