Chapter _ 8-1 現れ始める痕跡

 

その場で最初に起きたのは、サランだった。
サランがドアを開けて外へ出た瞬間、影のように見える黒い人影が、慌てて外へと逃げていくのが見えたという。

 

「……なるほど。そういうことだったんですね……」

 

「でも、その人が本当にそうなのかは分からない。
ただの推測に過ぎなかったから、みんなには言えなかったの。
もし話していたら、追及が始まって、状況がもっと悪化していたかもしれないし……。
私の話は、これで終わり。長い話を聞いてくれて、ありがとう……」

 

「いえ、先輩! お話が終わったなら、僕も戻りますね!」

 

「ええ……気をつけて帰って……!」

 

俺はゆっくりと正門の方へ歩き出した。

 

――もし、あの状況が本当なら、〇〇には十分な殺害動機がある。
だが、決定的な証拠がない。
イェビン先輩の家の床に溜まっていた水も気になるし……。
あの時捕まった人物の知人が来て犯行に及んだとしても、揉み合いの痕跡がないのは不自然だ。


かといって、イェビン先輩が自らドアを開けて迎え入れたというのも、やはり腑に落ちない……。

 

考え込みながらゆっくり歩いていた俺の服の袖を、ミナが強く引っ張った。

 

「ちょっと、ハン・ジュヨル! ぼーっとしないで!
そこ、凍ってるでしょ!? 転びたいの!?」

 

その瞬間、ジュヨルの頭の中を、ひとつの手がかりがよぎった。

 

――こお……り……?

 

「ありがとう、ミナ! 悪いけど今日は先に帰ってもいい?
ちょっと確認したいことがあるんだ!」

 

そう言い残し、ジュヨルは再び部室へと駆け出した。

 

部室に飛び込むと、彼は息を切らしながら資料を必死に探し始めた。

 

――あった……! これだ。

 

どれほど資料を読み漁っただろうか。
彼は、低く呟いた。

 

「……この人か。
じゃあ、あの時……そこに行っていたんだな……」

 

――これで、イェビン先輩の事件に一歩……いや、二歩近づいた。

 

あと少しだ。
この事件は、もうすぐ解決する。


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