Chapter _ 4  月影の下で

 

「会長先輩、もしかしてイェビン先輩と折り合いが悪かったり、何かトラブルを抱えていた部員はいますか?」

 

「うちのサークルは基本的に仲が良かったんだ。ただ、小さないざこざくらいはあったよ……。でも、イェビンを殺すほど深刻な対立を抱えた部員なんていなかった。サークルを作って間もない頃、皆で出かけた時に偶然事件に巻き込まれたことはあったけれど、それも皆で解決した。だから、部員たちをむやみに疑うのは違うと思うんだ……」

 

 言い終えた会長先輩の表情には、どこか諦めと願いが入り混じった陰が落ちていた。彼はそのまま静かに背を向けて帰宅し、俺たちは残って部屋の調査を続けることにした。

 

 俺とミナは黙々と部屋を調べ続けた。どれほど時間が過ぎただろうか。沈黙が重く積もり、空気が張りつめていく。その静寂を最初に破ったのはミナだった。

 

「ジュヨル、ちょっと来て」

 

 何かを見つけたのだろうか。俺はすぐにミナのもとへ向かった。

 

 彼女の手には薬袋が数枚握られていた。

 

「袋の中の成分、どれも睡眠薬が入っていないみたい」

 

 ミナはそう言って薬袋を机の上に並べた。

 

「まだ看護学科の一年だから専門的なところまではわからないけど……袋に書いてある薬名を全部調べてみたの。そしたら、一つも睡眠薬成分が含まれていなかった」

 

 さらにミナは続けた。

 

「もし被害者が薬を飲んで自殺したと仮定するなら、睡眠薬が入っている薬袋がどこかに残っているはず。でも、どこにも破られた袋が見当たらないの」

 

 その言葉を聞き、俺は今回の件が他殺であるという確信をさらに深めた。
 俺たちはその後もしばらく話し合い、調査を続けた。

 

 イェビン先輩の家を出た頃には、外はすでに月光だけが差し込む深い夜になっていた。

 

「ジュヨル……。こんな感じになっちゃったし、何か食べて帰らない?」

 

 ミナは疲労が見えたうえ、空腹のせいか苛立ちが滲んでいた。

 

(この状態で“食べない”なんて言ったら……俺、殺されるかもしれない)

 

 家に帰って休みたい気持ちは強かったが、空腹で気が立っているミナの雰囲気は、寒気がするほど鋭かった。

 

「わかったよ。じゃあもう一度タクシーで戻って、夕飯にしよう」

 

「いや、今回はそのままササンまで行って、チュクミ食べようよ! お腹すいたし、調査なんてしてたら辛いもの食べたくなるでしょ!」

 

 ササンにはミナが子どもの頃から通っているお気に入りの辛いチュクミ店があった。

 

「いいよ。もう遅いし、早めにタクシーで行こう」

 

 タクシーに乗り込んでササンへ向かうあいだ、俺たちは一言も話さなかった。今日一日の疲労が、声を奪ったかのようだった。

 

 店に着き、奥のテーブルに座る。注文を済ませ、料理が届くまでのあいだ、俺たちはただ黙ってスマホの画面を眺めていた。

 

 その時、ふと視界の端に見覚えのある影が入った。

 

(あの人……どこかで見たような……?)

 

 気になって顔を上げると、記憶がふっと蘇った。
 エレベーターで会った、あの女性だ。

 

「ミナ。あからさまに見ちゃだめだよ。……ほら、お前から見て七時の方向に女の人、見える? あの人、前にサークル室を探して迷ってた時、『入らないほうがいい』って言ったあの人じゃない?」

 

 俺がそう言うと、ミナはゆっくりとその人物の方へ視線を向けた。


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