教室に入ると、同じ授業を受けるらしい学生たちがすでに集まっていた。
(この人たちが、これから四年間一緒に過ごす仲間なのか……もうすっかり打ち解けてるじゃないか。)
すでに互いの名前や出身高校を聞き合って盛り上がっている学生たちの間を抜け、左側の窓際に空いていた席を見つけて腰を下ろした。
窓の外には、葉の落ちた枝ばかりが並ぶ山が広がり、先ほどとは違って道も静まり返って見えた。
「はい、皆さん注目してください。」
髪がかなり薄い五十代ほどの男性が前に立ち、声を張った。
「皆さん、まずは本学科へようこそ。前に立っている私は学科長です。これから四年間、一緒に過ごすことになりますので、どうぞよろしくお願いします。」
その顔は髪の薄さと対照的にどこか柔和で、むしろ可愛らしい印象すら与え、思わず面食らってしまった。
ぼんやり考えているうちに、学科長の言葉は続いた。
「では、これから皆さんに一つずつ課題を出します。まもなく二、三年生の先輩たちが来て、それぞれのサークルを紹介してくれます。興味のあるサークルを一つ選び、加入してください。」
そう言い終わるか終わらないかのうちに教室の前の扉が開き、二・三年生たちが列をつくって入ってきた。まもなく一人の先輩が話し始める。
「こんにちは。私たちのサークルは文学サークルです。一緒に本を読み、感想を書き、意見を交換する活動をしています。」
その後もさまざまなサークルの紹介が続き、全八つのうち七番目まで終わったころ、最後のサークル紹介となった。
「こんにちは。私たちは推理サークルです。警察が解決できなかった事件を再調査し、推理して真犯人を突き止める活動をしています。一緒に未解決事件を解く探偵を募集しています。サークルの場所は校舎地下B3階の避難所横の扉から入れます。」
すべての紹介が終わり、先輩たちは教室を出ていった。
「では皆さん、サークルへの加入は昼食後、各サークルの部室へ直接行って申し込んでください。これで本日の授業は終わりです。」
教授の言葉を聞き、「ありがとうございました!」と声がそろうかと思いきや、学生たちはすでに仲良くなった者同士で自然とグループを作り、わいわいと教室を出ていった。
(……俺だけまだ高校生気分なのか?)
みんなの後ろ姿を眺めつつ荷物をまとめ、ひんやり風の吹く窓の外を見ながら考えた。
(よし、俺は推理サークルに行ってみよう。)
雑念が頭の隅に残る中、それを断ち切るように大きな着信音が鳴り響いた。
「トゥルルル〜」
画面には「一番きれいで尊敬するお姉さま」と勝手に登録された名前が表示されていた。
(また勝手に変えたな……)と小さくぼやきつつ電話に出た。
「おい! 授業終わった? 昼でも食べよ。学校の池の前で待ってるから!」
そう言うと一方的に電話は切れ、俺は池のほうへ向かった。
池に近づくと、飛び石の両側でさざ波が揺れ、その下をアヒルがくぐり抜けていくのが見えた。
「おーい! お腹すいた! 早くご飯食べに行こ!」
反対側のベンチでミナが手を振りながら笑っていた。
「はいはい……行こう、飯。」
そうして雑談しながら大学近くの食堂へ向かった。
「ジュヨル、あんたもサークル紹介聞いたでしょ? もちろん推理サークル入るんだよね?」
幼いころから一緒にいた友人だけあって、彼女は俺のことなら何でも分かっていた。
「もちろん、推理サークルに入るつもり。昼食終わったら行こうと思ってたんだけど……ミナも一緒に行く?」
「行く! あたしもそこに入りたかったんだよ!」
ファストフードのような軽食屋で昼を済ませた俺たちは、推理サークルのある地下B3階へ向かった。初めて来る構内だったため、正門に貼られた案内図を確認した。
案内図によれば、B3階があるのは本館だけのようだった。
地図を見終えた俺たちは、本館へ急いだ。
本館に着き、エレベーターを見ると思わず身構えた。
B3階は「閉鎖中」と表示され、ボタンも押せないようになっていたからだ。
「学生さん、地下3階に何しに行くの?」
近くにいた本館の管理担当らしい男性が声をかけてきた。
「推理サークルに入ろうと思って!」
堂々と言うミナに、管理人は一瞬困ったような顔をし、しばらく考え込んでから口を開いた。
「そこへは地下2階の非常口から降りないと行けませんよ。それと……サークルは、よく考えて決めたほうがいい。」
意味深な言葉を残し、管理人は地下2階で降りて駐車場のほうへ消えていった。
俺たちはしばらく顔を見合わせ、黙ったまま地下3階へ行ける道を探した。
地下駐車場を何周も回ったものの、地下3階へ通じる階段は見つからず、再びエレベーター前へ戻ってきた。
「……どこから入れっていうわけ?」
苛立ち始めたミナがぼそっとつぶやき、本館に戻って別のサークルでも探そうかと言ったそのとき――
エレベーターの扉が開き、ひとりの人物が姿を現した。
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