Chapter _ 17-4 月だけが知っている物語

 

「なるほど……。
では、その車が洛東江まで向かう映像は?」

 

「それがないんだ。
何度巻き戻しても、あのナンバーの車が駐車場を出て洛東江方面へ向かった記録は存在しない。」

 

「……まさか本当に妖怪でもいるのかよ。
人が一瞬で消えて、川に現れる? それは百歩譲っていいとしても、あのサイズの車をどうやって移動させたんだ……。」

 

「そうなんですよ!
僕も何度も確認しましたが、当日洛東江へ向かった車両の中に被害者の車はありませんでした。証拠が見つからないんです。」

 

「チーム長。お前はどう見る?」

 

チャンヨン兄が視線を向ける。

 

「……まだ断定はできません。
もう少し調べて、犯人のトリックを暴く必要があります。」

 

ミナがふと思い出したように言った。

 

「ねえ、さっきファン警部補が言ってたでしょ?
イントラネットにも資料があるって。」

 

「ああ、そうだ。」

 

「もしかしたら別の証拠があるかもしれない。確認しよう。」

 

「よし。各自パソコンで調べよう。
……ログイン必要じゃないか?」

 

だがその心配は杞憂だった。

 

警察庁イントラネットに接続すると、
すでに各端末はログイン済みの状態になっていた。

 

「……俺、もうログインされてるぞ。」

 

「俺もです。ミナとチーム長は?」

 

「私も。自動ログインみたい。」

 

「助かった……。」

 

「兄貴たち、さっき“ウェブメール確認しろ”って言ってましたよね?」

 

「ああ。……あ、あった。画面下に“Web Mail”。」

 

「入りましょう。」

 

メールを開くと、
既存資料のほかに——六名分の供述調書が共有されていた。

 

俺は即座にファイルをダウンロードし、開く。

 

想像以上に詳細だ。

 

事件当日の行動、移動経路、接触人物。

 

六人それぞれの一日が、頭の中に映像として浮かび上がる。

 

現場写真と照合しながら、ゆっくり読み進める。

 

そして——

 

「……兄貴たち。」

 

俺は静かに言った。

 

「ここにいる六人、全員に殺害は可能です。」

 

「だよな?」

 

「どの供述も、あの時間帯にCCTVのない場所へ移動していれば、十分成立する。」

 

「明日、ファン警部補に頼もう。
六人の自宅周辺のCCTVも提出してもらうべきだ。」

 

「この中に、犯人がいる……。」

 

その時、ミナが小さく言った。

 

「でも……どうしてずっと“六人”って言うの?
四人じゃない? 両親は除外していいんじゃ……。」

 

俺は首を振る。

 

「可能性は、誰に対しても平等だ。」

 

「でも……世の中のどんな親が、自分の子どもを……。」

 

「ミナ。」

 

チャンヨン兄が穏やかに言う。

 

「ジュヨルの言う通りだ。
事件は感情で線引きしないほうがいい。」

 

ミナはしばらく黙り込んだ。

 

やがて、小さく口を開く。

 

「……被害者のお母さん、本当に違う気がするの。
少し話を聞いたんだけど……」

 

俺たちは耳を傾けた。

 

「自分は一生子どもを持てないと思ってたって。
でもある日——まるで月で遊んでいた兎を授かったみたいだったって。」

 

室内が静まる。

 

「その日は、とても月が綺麗だったらしいの。満月が空に浮かんでいて……。
大切に、大切に育ててきた。
悪い道に進まないか心配だったけど、あの子は本当に優しく育ってくれたって。
だから、ただ健康でいてくれればよかったのにって……。」

 

ミナの声が震える。

 

「自分が解剖を止めてしまったのが、どうしても許せないって……。
涙が枯れるまで泣いてた……。」

 

誰も、すぐには言葉を返せなかった。

 

やがて俺は、静かに口を開く。

 

「……ミナ。気持ちは分かる。
でも、事件を感情で見ちゃいけない。」

 

「……うん。ごめん。もう言わない。」

 

俺はホワイトボードの前に立った。

 

「イントラネットで確認した六人の情報を、写真の横に貼ろう。
全員、同じ線上に置く。」

 

容疑者の顔写真が並ぶ。

 

その中央に——

 

被害者の写真。

 

月明かりが、窓越しに白く差し込む。

 

六人。

 

誰が、嘘をついている?