『胸騒ぎのヘンデル』演奏会に寄せて
私達ムジカ・レセルヴァータはこれまで毎年、テーマを決めて演奏会を行ってきました。音楽好きなフリードリヒ大王の宮殿に因んだプロイセンの音楽、18世紀フランスのベルサイユ宮殿を中心に発達したロココ様式の音楽、大バッハとその弟子達をめぐる音楽等々・・・その中には普段滅多に取り上げられない作品も多く含まれていました。が今年はかの有名なヘンデルの作品を取り上げます。
ヘンデルは、一生ドイツを離れることのなかったバッハとは対照的に、イタリアやイギリスなど外国での活躍が長かった作曲家です。彼の興味の中心は何といっても、当時イタリアを中心にヨーロッパ中で流行していたオペラで、膨大な数の作品を残しています。イギリスに滞在中オペラに対する人気が次第に衰えていき、代わりにオラトリオが台頭するようになると今度はこのジャンルの作品に取り組み、メサイアをはじめとする傑作を生んだことはよく知られています。カンタータには、そうした声楽の両ジャンルで培った様々な作曲上のノウハウが生かされている点が注目されます。
一方優れた鍵盤奏者でもあったヘンデルは器楽作品も多数残しており、特に室内楽には力を入れていました。中心となるのは種々のソロ楽器のためのソナタと、二つの旋律楽器と通奏低音のためのトリオ・ソナタで、声楽作品で発揮されたよく歌う旋律の特質はここでも生かされ、これに優れた対位法の技術、楽曲構成法の手堅さなどが加わり、いずれも音楽的に質の高い作品となっています。
ヘンデルはまたある旋律なりテーマなりを使い回しする、所謂パロディー(旋律の借用)の大家でもあります。矢継ぎ早にオペラを発表したヘンデルは、しばしば時間が無くなると自作の既存旋律を用いて急場をしのいでおり、室内楽作品の一部にオペラやカンタータで用いられた旋律素材が顔を覗かせる、あるいはお気に入りの節を複数の作品で使用する、という例が多く見られます。
以上、ヘンデルの作品の特徴といったものを私なりに述べてみましたが、10/1の演奏会をお聴き頂く際の一助となれば幸いです。なお当日は、ヘンデルの作品以外に、彼と関わりのあったポルポラやバルサンティといったイタリア人作曲家の作品も取り上げますので、併せてお楽しみ頂ければ幸いです。
(ムジカ・レセルヴァータ代表、
チェンバロ奏者 岡田龍之介)